「参加者全員の安全」を優先する
延期を決断できないまま、3月27日に在宅勤務に関するミーティングで出社した。そのとき主賓として招待していた勤務先の社長に、結婚式の開催について尋ねられた。
「とにかく情に厚い人なんです。その人から『松尾くんが開催するならもちろん参加するけど、どうするの?』と聞かれたことで、参加者全員の安全を優先すべきだと思いました。聞きにくいことをさらっと聞いてくれたことで、延期を後押しされたと感じました」
同じ日の午後、式場から「日程の変更をおすすめさせていただくことになりました」というメールが届いた。松尾さんが式場に延期の意思を伝えたのはその2時間後のことだ。
延期の決断を迷っていたのは、キャンセル料のこともあった。結婚式の予算総額は約440万円。式場へ払う約400万円と、式場に持ち込む引き出物代などの約40万円だ。契約した式場では、「挙式日の30日前~11日前」は「期日変更料」がかかる。松尾さんの場合、約400万円の支払いのうち、約52万円のキャンセル料がかかると見込まれた。
ただ、幸いなことに今回は延期による式場への支払いは生じなかった。一斉休校の要請が出た翌日の2月28日時点で、「式の2週間前までの変更では移動料金はかからない」という旨の連絡をもらっていた。さらに延期を決めた3月27日時点では、「1週間前まで」と条件が緩められていた。ただし、式場以外で手配していた引き出物代などの実費は戻ってこない。
あえてネガティブなことを考えなくなっていた
結婚式では「ご祝儀」を加味して予算を立てるのが一般的だ。だから不測の事態でキャンセルとなれば、開催時に比べて格段に多い出費を迫られる恐れがある。そうしたリスクを考えているカップルは多くはないだろう。
「結婚式を予約した当初は、当日の天気や自分たち、参加者の健康程度しか考えていませんでした。でもいま振り返ると、2月後半からは、あえてネガティブなことを考えないようにしていた気がします。思考にフィルターがかかっていた感じです」
結婚式を挙げることを強く勧めていた新婦の父親は、新型コロナウイルスの感染拡大が進むにつれ、「延期を考えてもいいのではないか」と言うようになり、延期を決断した時には、「よく決断したね。つらかったでしょう」と2人の判断を受け入れてくれたそうだ。
松尾さんは同じ式場で今年の秋に結婚式を行うつもりだという。秋までに収束しているかはわからない。その場合、来年4月まで延期ができ、日程を移動したことに追加料金はかからないという。
「自粛」は強制ではない。たとえ多額の出費が生じたとしても、それは自己責任となる。いま結婚式に限らず、あらゆる場面で自粛による想定外の出費が生じているだろう。これはいつまで続くのか。先行きの見通せない状況が続いている。