毎週一回、全24回のセッション
私は「性犯罪者再犯防止プログラム」「薬物依存離脱指導プログラム」の開発に携わった後、法務省を辞した。その後2006年からこの病院で、薬物依存症の治療プログラムにかかわっていたのだが、2008年から痴漢をはじめとする性犯罪歴や性的問題行動を有する人たちの治療グループも担当することになった。そこで用いている治療プログラムは、刑務所のものとは別に、病院での外来治療用に私自身が開発したもので、すでに首都圏の他の病院でも実施していたものである。
痴漢外来の治療プログラムは、基本的に週1回、全24回のセッション(合計約6カ月)で実施される。「ワークブック」に沿って、集団療法で行われ、毎回10人を超す患者さんが参加している。これが、10年あまり続いている。
最初は、そんなに患者さんが集まるのか、6カ月も続く治療をきちんと受け続ける人はいるのか、などと危惧していた。しかし始めてみて、すぐにそれは杞憂であることがわかった。いつも一クールが終了する頃には、20名近い新患の人々が参加待ちをしているという状況が、開始以来ずっと続いている。つまり、それだけ痴漢などの性的問題行動がやめられない人の数が多い、しかも、治療を望んでいる人の数が多いということなのである。
「自力ではやめられない」という深刻さ
こうした人々のほとんどは、「やめたい、やめなければならない」と思いながらも、自力ではどうすることもできず、何度も逮捕されたり、はては受刑したりという経験を持っているのである。「なぜやめられないのか」。ほとんどの方はそう思うだろう。逮捕されたり、刑務所に入ったりすれば、普通は懲りるはずだ。反省が足りないのではないか。実は、当の本人たちもそう思っている。
しかし、「やめたいのに、やめられない」。これがこの問題の深刻な点なのである。いくら反省しても、どれだけ強く誓っても、自力ではなかなかやめられない。刑務所に入ってすら、やめることができない。それは、何も彼らが反省をしていないわけではない。先にも述べたように、本人の反省に訴えかけるだけの処罰には、十分な効果がないからである。
こうした性犯罪の一部は「依存症(アディクション)」であると考えられている。すべてではないにしろ、「やめたいのに、やめられない」たぐいの行為、まさに痴漢、盗撮、下着窃盗などの多くが、依存症のメカニズムで説明でき、治療にあたっても依存症の治療モデルが活用できる。