他の依存症治療に比べ途中の脱落者が少ない

治療は毎回、私ともう一人の治療スタッフで実施する。患者さんにはワークブックを配布し、それを用いて決められたセッションを定められた予定にしたがって行う。このワークブックは、各自の過去の問題行動を分析したり、その対策を考えたりする内容となっている。各自の課題が終了したあとは、意見を発表し合ったりもする。

患者さんは皆、非常に熱心である。依存症治療全般に言える特徴の一つに、治療脱落(ドロップアウト)の多さが指摘されるが、痴漢外来の患者さんは脱落が非常に少なく、治療終結率が高い。われわれの研究データでは、平均出席率は70%を超えており、アルコール依存症や薬物依存症の治療においては、それがせいぜい50%であることを考えると、きわめて高い数字である。

患者さんの多くは、昼間はきちんとした仕事をしているため、治療プログラムの実施は夕方である。仕事が終わるや否や急いで職場を抜け出して、一時間から一時間半の治療セッションに参加するので、ターミナル駅の目の前という立地は、非常に都合が良い。

スーツ姿の患者さんが目立つというのは、覚醒剤やアルコール依存症の治療場面ではなかなか見られない特徴である。なぜなら、これら物質依存症の場合は、物質の作用によって身体や心まで壊れてしまい、仕事を続けることができなくなってしまうからだ。あるいは、もともと正業に就いたことがないという人も多い。

30代と40代で全体の7割を占める

痴漢外来の患者さんの内訳はどのようになっているだろうか。データをまとめた時点での、137人のデータをもとに紹介したい。

先に述べたとおり、性別は100%男性である。とはいえ、女性からの相談も皆無というわけではない。しかし、性別が異なれば、性についての問題も当然のことながら大きく異なるため、女性は痴漢外来の治療グループには入らず、個別の診療となっている。

【図表1-1】性的問題行動の内訳、【図表1-2】年齢の内訳

問題行動の内訳としては、やはり痴漢が最も多く、41.6%を占めている。しかし、痴漢ばかりではない。次いで盗撮・のぞき(35.8%)、過度な風俗店利用や浮気(11.7%)、露出(3.6%)、その他(7.3%)となっている。その他には、下着窃盗、小児性愛、強制性交(強姦)などが含まれる(図表1-1)。

このなかで、過度な風俗店利用や浮気というのは、他の問題行動と違って性犯罪ではない。彼らは、性風俗店通いがやめられず多額の借金を作ってしまったり、度重なる浮気が妻や家族に見つかって家庭崩壊となってしまったりした人たちである。また、いわゆる「援助交際」「出会い系サイト」などを通して、未成年との不適切な性的関係に関与した人もいる。

年齢は、平均36.1歳。10代が4人(3.0%)、20代が24人(17.5%)、30代57人(41.6%)、40代38人(27.7%)、50代9人(6.6%)、そして60代5人(3.6%)である(図表1-2)。30代が一番多く、次に多い40代と合わせると、この両世代で七割を占めている。