例えば、シャープを買収した鴻海ホンハイ精密工業の郭台銘(テリー・ゴウ)氏が来たとき。彼の英語がブロークンだったので、孫は襖のボードに議論の要点となる算数の式を書き出して話し合いました。

孫にとってのメモとは「シェア&コミットメントのためのツール」なのです。

学生時代に1億稼いだ「発明ノート」

孫が、メモを習慣化したきっかけは、アメリカ留学時代の「発明ノート」です。彼は19歳のとき、カリフォルニア大学バークレー校に留学し、経済学を専攻していました。

自分で学費を稼がなければならないが、アルバイトをすると勉強の時間が削られてしまう。なんとか短時間で稼げる方法はないかと考えた彼は、「優れた発明をして、それを企業に買ってもらえば、短時間で稼ぐことができる」と思いついたそうです。

そこで、毎日5分だけ使って、1日にひとつ発明をする習慣を自らに課したのです。この発明ノートが、孫のメモの始まりです。

孫の発明ノートのポイントは3つあります。

第1は「問題解決法」。みんなが日常生活で不便に思っていることは何かを常に考えてノートにメモし、その解決法を考える。

第2は「水平思考法」。ある事柄をノートに書き、その逆を考える。例えば「冷蔵庫は白い」と書き、黒だったらどうなるかを考える。

そして第3が「組み合わせ法」。既存のものを2つ以上組み合わせて新たな価値を生み出す方法。ラジオとカセットを組み合わせると、ラジカセになるように、あらゆるものを組み合わせてみる。

こうして日々発明に取り組んだ結果、彼は250以上の発明アイデアを生み出したそうです。その中のひとつが、世界初の「音声機能付き翻訳機」。後にこれをシャープに売り込んで1億円を手にしたのは有名な逸話です。

私は、孫が「組み合わせ法」でアイデアを生み出す瞬間に遭遇したことがあります。ソフトバンクが第4の事業会社として携帯電話事業への参入を目論んでいた時期のことです。

ある日、講演のために孫とともに岡山県を訪れました。車で走っていると、孫が窓の外を指さしながら「嶋さん、あの山の上にアンテナ見えるでしょ?あれがポイントなんです」と言ったんです。携帯電話サービスの品質を向上させるためには、基地局の数がポイントになります。しかし、いちいちコンクリートの基礎を造っていたのではカネも時間もかかる。孫は、もっと簡便に基地局を増やすためにはどうすればいいかを日夜考えていました。そして、海沿いにあるテトラポッドを指さして、「あの上にアンテナをつければ、置くだけで設置できるから簡単だ」とひらめいたのです。

孫はすぐさま、最高技術責任者だった宮川(潤一=現・代表取締役 副社長執行役員 兼CTO)に電話をかけ、「テトラポッドの上にアンテナを立てる」というアイデアについて話し始めました。アイデアを思いついたときには、メモではなく即座に電話かメールをする人なのです。