海外では「奇跡の国」と呼ばれるが、事態は深刻
その中で、日本は「奇跡の国」と言われてきました。世界レベルで見ると薬物犯罪や乱用者は極めて少ない水準だからです。しかし、現実には、危険な状況にあります。世界中の薬物犯罪組織が膨大な覚醒剤を送り込んできている。同時に若者を中心に大麻が爆発的に流行。インターネットでも平然と薬物が売買されており事態は深刻です。
今、何が起きているのか。どういう問題があるのか。実は身近に迫っている薬物の問題を多くの方に知ってもらい、関心や問題意識を持っていただきたい。そういった狙いで、まず新潮45(月刊誌)『新潮45』で4回連載し、その後、新潮新書として大幅に書き下ろしを加えました。
そうやって、かなり労して、まとめあげる形で、『マトリ』の刊行にいたったわけです。執筆には必ずしも前向きでありませんでしたが、新潮社の編集担当者の情熱にほだされたというのも事実ですね。
——本を出版して、どんな反応がありましたか。
「日本の薬物犯罪史と麻薬取締官の活動実態が理解できた」「薬物問題に関心を持った」「読んで得する本だ、多くの人が読むべきだ」などうれしい感想をいただいております。
とりわけ、「大義を持って働くということ:あなたは何のために働くのか、その問いを突きつけて、本書は終わる。」という幸脇啓子さん(元・月刊「文藝春秋」編集部次長)の書評には感激してしまいました。全くの素人が書いた本ですが、少しはお役に立てたのかと、思っております。
日本は「アジア最大の覚醒剤マーケット」
——薬物と言えば、覚醒剤のイメージがあります。
日本でも多種類の薬物が出回っていますが、圧倒的に多いのが「覚醒剤」です。現在、日本は「アジア最大の覚醒剤マーケット」と呼ばれ、海外の薬物犯罪組織がこぞって狙っています。
覚醒剤がこの4年連続1トン以上押収され、2019年は2トンを超えました。この2トンという数字をどう見るかというと、初心者の覚醒剤の不正使用は、大体0.03グラムを使います。2トンは6000万回分ですね。末端価格で1200億円に上ります。
にもかかわらず、末端価格にほとんど影響がない、というのをわれわれ肌で感じています。つまり覚醒剤は波状的に密輸されている。そしてわれわれの想像を超える乱用者が存在しているということです。
——薬物を使っている人はどんな人ですか。
薬物事件の被疑者として、最近では、中央官庁の職員、新聞社、放送局、大手企業の会社員、教職員、芸能人、それに中高校・大学生も相次いで逮捕されました。さらに、何日か前には自衛官も……。忌々しき事態です。
彼らはどう考えても反社勢力とは結びつかない普通の人たちです。それが今相次いで逮捕されている。日本人の薬物に対する危機感が低下しているとの印象を受けますね。