「過去最大の経済対策」は実態に合わず

その一方で、首相は同じ会見ではバーやナイトクラブ、カラオケ、ライブハウスを名指しで出入りを控えるよう要請した。厚生労働省のクラスター対策班の分析・進言を受けて、小池百合子都知事が出入り自粛を求めたものと同じだ。この時、都知事に対しては「営業ができなくなる」との批判が政府内やワイドショーなどで噴出したが、東京都がこうした店舗に「感染拡大防止協力金」という形で支援する構えを見せているのに対して、かたくなに補償を否定する安倍首相が同じ要請をするという矛盾も生じている。

そもそも、特措法は休業を求めることができるものの、それによる損害の「補償」についての記載がない欠陥法といえる。「過去最大の経済対策」(麻生財務相)という緊急経済対策に盛り込まれた「1世帯あたり30万円の給付」や「中小企業に最大200万円、個人事業主に最大100万円」などの支援策は、休業などで大幅に収入や売り上げが減った世帯や事業者が対象で、その条件が実態に合っていないとの声は多い。自民党担当の全国紙記者はこう語る。「与党内からは『世帯ではなく、一人一人に給付すべきだ』『非常事態だから支援策を欧米のように大規模にすべきだ』との声が相次いだが、政府主導で反対論を押し切った。中途半端な支援策で国難を乗り越えられるか不安視する議員は少なくない」。

北海道の「前例」が、安倍に甘えを与えてしまった

緊急事態宣言の発令が遅れた2つ目の理由は、北海道の「前例」だ。北海道の鈴木直道知事は急速な感染拡大の兆候があった2月28日、法的根拠に基づかない「緊急事態宣言」を発表し、政府の専門家会議が「一定の効果があった」と指摘した。鈴木知事は予定通り3月19日に終了宣言し、4月上旬までは北海道内の感染者数の増加は1日数人程度になっている。

特措法に基づかない「緊急事態宣言」で鈴木知事が呼びかけたのは、週末の外出自粛や大規模イベントの開催自粛などだが、「感染拡大のペースが北海道内で落ち着いたことを見た菅官房長官はこうした取り組みを全国で実施すれば、『首相が特措法に基づく緊急事態宣言までしなくても大丈夫だ』と高をくくっていた」(民放記者)とされる。

だが、「ヒト・モノ」が集積し、成田空港や羽田空港、関西国際空港を抱えて海外からの帰国者対応も余儀なくされている首都圏や関西圏と、北海道での対応を同一視できるのかは疑問だ。安倍首相は3月10日の政府対策本部で「全国の大規模イベント自粛を今後10日間程度継続」するよう要請したが、3月19日の北海道による終了宣言と重なる「期限」設定は、3月20日からの3連休に「国民に緩みが生じ、『もう期限は過ぎたから大丈夫だ』と外出した人々を生んだ」(前出の全国紙記者)との指摘がある。