しかし、郊外の駅近にマンションを買う場合でも失敗する人はいる。もともと駅からも離れた郊外に住んでおり、そこから駅近に移動してくるパターンだ。現在の高齢者たちの多くが家を買った場所、それは丘の上に立つニュータウンである。年を重ねるにつれ、生活はどんどん不便になっていく。

「その家を売って、駅近のマンションを買ったとして、大きなキャッシュが残るでしょうか。家を売るにも仲介手数料などの諸経費がかかるため、売却額が丸々残るわけではありません。さらにマンションを買う場合にも諸経費はかかってきます」

また、郊外の安い物件を買う場合には投資ではなく消費であると理解しなければならない。

「たとえば、東芝の青梅工場、日野自動車の日野工場の撤退により、同地域の不動産価値は下落しました。地域経済を支えていた工場がなくなると、関連企業もふくめての話になりますから、人口は激減します。安い物件というのは必ず理由があるわけで、あとで良い値で売ろうなどと考えてはいけない。その街に住みたいという明確な理由がない場合には、おすすめはできません」

田舎で隠居暮らしの落とし穴

大きな持ち家を売り払い、伊豆かどこかの小さな家に夫婦で静かに暮らそう――。モノを捨てて心機一転第2の人生をスタートする「断捨離ブーム」が2009年に起きた。当時は断捨離に憧れるシニアが藤川氏のもとにも多く訪れたというが、「みんなが思うように断捨離できるのなら、ブームにはならない」と話す。

「大きな家に住んでいた人が、いきなり小さな家に移り住むことはできるのか。私が見た限りでは断捨離を実行できた人はほとんどいませんでした。大きな家に住むと、自然とモノが溜まっていく。では、それを綺麗さっぱり捨てられるか。結局できずにそれなりに大きな家を買ってしまうのです」

大きな家から大きな家に移り住んだところで、大きなキャッシュは生まれない。断捨離したいという気持ちはあっても、できない人であふれていたからこそブームは起きたのだ。

田舎の隠居暮らしに憧れる老夫婦にはさらに悲惨なケースもある。定年後、横浜にある持ち家を売った丸山さん夫妻(仮名・ともに60代)は、とあるリゾート地に立つマンションを格安で購入した。熱海、伊豆、箱根などのバブル期に乱立したリゾートマンションは、現在価格が崩壊。新潟県越後湯沢のリゾートマンションにいたっては、3LDKの中古マンションが10万円でたたき売りされている。