FTの国別累積死亡者数のチャートに引かれている4本の線は、左からDT=1日、2日、3日、7日です。グラフの傾きが急なほど、指数関数的に死者数が増えていることになります。中国は累積死亡者数こそ多いものの傾きが平坦化(DT45)しているので、感染をほぼ完全に抑制できていることがわかります。

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ニューヨークタイムズが公開している国別累積死亡者推移チャートも同じロジックで作成されています。これはインタラクティブで、国にカーソルを当てるとDTが表示されるので便利です。

Total coronavirus deaths for places with at least 25 deaths

今後2~3週間の状況をほぼ正確に予測できる

次に重要なポイントは、「累積死者数は遅行指標」ということです。潜伏期間を5日、入院から死亡までを14日とすると、今日の死亡者数は19日前の感染状況を反映していることになります。ロックダウン(都市封鎖)してもそれ以前の感染者数は変わらないので、効果が出るまでに最短で20日間必要になります。

ただし、医療崩壊したイタリアでは入院してから平均8日で死亡していると報じられました。この場合は潜伏期間(5日)を加えて13日になります。大雑把に2~3週間前の感染状況を示していると考えればいいでしょう。

ロックダウンなどの感染抑制策をとっても、それ以前の感染者数/入院数は変わらないので、2~3週間はそれまでのトレンドに沿って死者が増えていくはずです。すなわち、累積死亡者数の推移を見れば今後2~3週間の状況をほぼ正確に予測できます。この「未来予測能力」がこのチャートの最大の特徴です。

たとえば、下記は3月25日のFTの地域別チャートで、ニューヨークはロックダウンから3日目ですが、おそろしい勢いで死者数が発散していることがわかります。このトレンドは少なくとも2週間は変わらないので、この時点で、医療崩壊が報じられた北イタリアやマドリードよりはるかに深刻な状況になることが「確定」しています。その後の経緯はご存じのとおりです。

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DT=3(日率26%)、スタートを(死者)10人とすると、10日後に100人を超えます。ここでロックダウンに踏み切っても、同じペースで死亡者は増え続けるため、20日後に1000人、30日後には1万人に達します。

この事態を為政者は把握しているでしょうが、国民は指数関数を直観的に理解できないため、100人の死者がわずか10日で1000人に増えるような状況を冷静に受け入れることができません。

これが欧米諸国の置かれている苦境で、イタリアは現在、感染の収束が期待できますが、死者の累計は1万人を超えており、ひとびとはその人数に圧倒されてしまうでしょう。このように、いったん感染が拡大しロックダウン状況になると解除が難しくなります。

ロックダウンの効果が出て感染者数が抑制されると、その効果は2~3週間後にチャートに反映されます。イタリアはDT=8日を超えるようになって、感染者数の減少が報じられるようになりました(現在はDT=13日)。