消費税減税はお金持ちほど優遇される

第1に、即効性の問題である。消費税を減税するには、経過措置の規定など多くの改正法案作成作業が必要となる。補正予算を組むだけで対応できる給付金と比べて、はるかに時間を要する。また事業者の経理システムの改修、タクシーなどの認可制料金や郵便料金のような公共料金、診療報酬や介護報酬などを再設定する必要があるので、準備に少なくとも3カ月以上を費やすことになるという問題がある。

第2に、減税までの消費の手控え、元に戻す際の駆け込みなど、余分な経済変動、不安定化が生じる。

第3に、新型コロナ問題が広がる中で、経済的な被害の少ない方がおられる。例えばIT事業などを行っている高所得者、大企業正社員、公務員、年金生活者など、所得に関する限りほとんど打撃がないと思われるが、消費減税をすれば、彼らにも恩恵が及ぶ。

一般に消費税は逆進性があり、低所得者には負担がきついといわれるが、それは所得に対する消費税負担の割合のことを言っている。しかし消費税は消費額に対して比例的にかかるので、高所得者が車やマンションなどの高額商品を買えば、金額ベースの負担額は大きい。

逆に言えば、今回消費税を5%引き下げるという手段をとった場合には、車やマンションなど高額商品を買う高所得者ほど減税額が大きくなる。つまり消費税減税は、お金持ちほど優遇されるということになる。これは財政資金の使い方としていかにも無駄といえよう。したがって、そのような効果をもたらす消費税減税という選択肢はとるべきではない。後述するような、生活困窮者への助成に集中的に回すことができる対策手段を講じるべきだ。

給付金は生活困窮者に手厚く配布を

最後に、消費税の持つわが国における政策的な意義である。消費税は、全世代型社会保障の切り札で、とりわけ幼児教育・保育の無償化など、わが国の働き方改革、少子化対策を進めていくための貴重な財源となっており、すでに使われ始めている。

一方、新型コロナウイルス騒ぎは、時間はかかるかもしれないが、必ず収束する。そうであるなら、消費税減税のように、わが国の中長期的な政策と矛盾し、将来に大きな禍根を残すことになるような政策はとるべきではない。

筆者は、消費税減税より給付金が即効性があり、対策として有効だと考える。しかし国民全員にばらまくのではなく、高所得者・世帯や年金生活者を除くなどして、その分生活困窮者に手厚く配布することが必要と考えている。

09年のリーマンショック後に麻生内閣の下で行われた国民全員への定額給付金(1万2000円)については、全体として消費を喚起する効果が弱かったという事後検証が行われている。その最大の理由は、高所得者など対策の不要な者にも配ったため、貯蓄に回ったことだ。

今回はそのような無駄は排除すべきで、そのためには、マイナンバーを活用して所得情報(税務情報)と社会保障情報を一体的に運営するシステムの構築を、デジタルガバメント化の一環として行う必要がある。