「司令塔」が不在のまま、中国・武漢市の滞在邦人をチャーター機で退避させた際には1人約8万円を徴収する方針だったものの、与野党から批判が噴出すると撤回。感染が拡大していた中国と韓国からの入国制限強化は20年3月5日にようやく打ち出された。全国一斉の臨時休校要請は難色を示した文部科学省のみならず、首相官邸内の慎重論も無視して独断で決めたとされる。

安倍政権は危機対応に強いと見られてきた

全国紙の政治部記者は首相の対応をこう語る。「安倍政権は危機対応に強いと見られてきたが、いざ非常事態を迎えると思ったほどでもなかった」。

危機対応で思い出すのは、2011年3月の東日本大震災だ。当時の民主党政権は菅直人首相と枝野幸男官房長官のコンビで、野党だった自民党は原発事故の対応などに「後手後手の対応」「菅政権は迷走している」などと猛批判を展開した。その急先鋒の1人が安倍氏で、同年5月20日付のメールマガジンには「菅総理は間違った判断と嘘について国民に謝罪し直ちに辞任すべき」とつづった。原子炉を冷やすための海水注入をめぐる記載に対し、菅元首相が損害賠償などを求めた訴訟は菅氏の敗訴が確定したが、安倍首相は事あるごとに「悪夢のような民主党政権」と批判してきた経緯がある。

19年2月の自民党大会では「12年前の参院選で惨敗し、悪夢のような民主党政権が誕生した。決められない政治、経済は失速し、後退し、低迷した。あの時代に戻すわけにはいかない」と声を張り上げた安倍首相。だが、これまでのコロナウイルス初期対応を見る限り、期待感もあった分、失望感への反動は保守層でも大きかった。

「7年以上も政権を担っているのに、いまだ民主党政権時代の失態を取り上げるのは不毛。今や経済状況も心配されているのに、国のトップとして非常事態をどう乗り越えるのか具体策が聞こえてこない」(民放政治記者)

民主党政権時代に低迷していた経済は、円安・株高を誘引するアベノミクスが奏功し、それが高い内閣支持率に結びついてきた。だが、今回の「コロナ・ショック」で株価暴落は止まらず、景気後退を警戒する売りが殺到している。「リーマン・ショック並みか、それ以上かも」(西村康稔経済再生担当相)と見る政府は、日銀の追加金融緩和と歩調を合わせた「リーマン時を上回る緊急経済対策」を打つ構えだが、「財務省の言いなりの安倍さんですから、内実はショボくなる」(政府関係者)という。民主党政権の経済失政を批判してきた安倍首相が放つ今後の「カード」が市場から敬遠されれば、「大ブーメラン」として名を汚すことになる。

「政治は結果責任だ。その責任から逃れるつもりは毛頭ない」。20年2月29日の記者会見で、こう決意を示した安倍首相だが、「東京五輪・パラリンピックが中止ならば政治責任が持ち上がる」と自民党の鈴木俊一総務会長は述べていた。中止という最悪の事態は免れたが、はたして、後世に名を残す「大宰相」として任期を満了できるのか否か。史上最長政権は正念場を迎えている。

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(写真=時事通信フォト)