ビジネスパーソンにすすめる日本史勉強法

日本人の好きな歴史上の人物といえば、信長、秀吉、家康です。同じ戦国武将でも「長生きしたいから毛利元就が好き」とか、「倹約・風俗粛正に徹し、幕府の財政を再興しようとした水野忠邦のような改革者になりたい」と言う人は珍しい。司馬遼太郎の著作をはじめ、著名な小説の中には天下を取った人々の人心掌握術や逆境を乗り越える生き様が躍動的に描かれており、ビジネスパーソンの心を掴むのでしょう。

作家・元外務省主任分析官 佐藤優氏

ただし、歴史小説や漫画を楽しむことはあっても、勉強に活用しようと思ってはいけません。専門分野であれば、なおさらです。

私は外務省でロシア研修生の指導官を務めていたことがあります。そのとき私は研修生に「司馬遼太郎の『坂の上の雲』でロシアを理解することはできない」と指導していました。たとえば、陸軍情報将校の明石元二郎がレーニンに面会したと語る場面があります。2人は「友人であったといっていい」と司馬は書いている。たしかに、明石が残した手記には面会の話が実際に書かれているのですが、それ以外の証拠がまったくない。常に明石の行動を監視していたロシアの秘密警察の記録を見ても、そんな記載はありません。こうした重要事項がフィクションであるからには、全体についてもそういった心積もりで臨む必要があります。

とはいえ、小説をはじめ教科書以外の作品を読む意義もあります。たとえば、百田尚樹さんの『日本国紀』を読めば、保守派やネット右翼の人たちが、どういう歴史観を持っているかを知ることができる。現実に一定の力を持つ人たちの歴史観を、読まずに批判するのはいけない。そういう人たちをマーケットにビジネスをする場合、当然読む必要がある。こういう読書を通じて、世の中にはさまざまな歴史観が存在することを理解するのです。

ビジネスパーソンが日本史を勉強するとき、どのくらいのレベルの知識が必要か。日本政府観光局が行っている通訳案内士の試験が、目安になります。通訳案内士は、海外から日本を訪れる観光客を案内するための国家資格です。試験はマークシート式で、過去問が公開されています。たとえば2019年度は、藤原定家が撰者の1人となった和歌集を、万葉集、古今和歌集、新古今和歌集、新続古今和歌集の中から選択する問題などが出ています。

また、歴史につきものなのが、年号です。年号が頭に入っていないと、歴史の節目は理解できません。

▼佐藤優がすすめるビジネスパーソンのための
日本史勉強法
◎小説や漫画では勉強にならない
◎年号を覚えることは非常に重要
◎ワンテーマの新書だけでなく、通史こそ読むべき
◎世界史については近現代史で十分。古代まで遡る必要はない