何だ、こいつ、古臭いやつだ

1333年、千早城に籠もった楠木正成軍に対して、鎌倉幕府の大軍が攻めかかります。幕府軍の武士は城の前へ出ていって、「やぁやぁ我こそは」と名乗りを上げる。戦は天が見ている下での決闘だ、という発想に基づく伝統の作法です。対する西軍は「何だ、こいつ、古臭いやつだ」と、矢を射て殺してしまう。

それより約150年前の源平合戦の時代は、お互いに名乗り合っていたわけです。ところが、この時代になると西軍は合理主義に変わり、いきなり射かけたり、上から丸太や糞尿をぶっかけたりします。そういった異なる価値観や常識が混在していたのがこの時代です。両軍には、終身雇用制(人に仕事を付ける働き方)の鎌倉時代の御家人と、ジョブ型雇用(仕事に人を付ける働き方)である野武士も混在していました。

室町幕府・小泉政権に共通する「小さな政府」

現代との相似性でいえば、足利尊氏が開いた室町幕府は、小泉政権によく似ています。経済機能は民間に任せ、政府機能を極小にしました。つまり新自由主義だったのです。

グローバリゼーションの脅威にさらされていた点も、現代に通じます。当時の中国大陸には、巨大な明国が建国されました。高度な国防国家ですから、元国よりも怖い存在です。足利義満はその脅威にへりくだり、勘合貿易を始めました。日本と明国の関係は現在の日米関係に似ています。

明国と組むしかないと現実的に考えた義満などのほかに、「日本には日本の独自の発展モデルがある」と信じる北畠親房のような人物がいたことは、特筆すべきです。後醍醐天皇の側近で、戦う貴族だった北畠親房は、『神皇正統記』の著者として有名です。

人材の登用について同著では、「人を選ぶときには、まず品性、次に実績、3番目に身分で選べ」と言っている。秩序や権威に反発する「ばさら大名」が登場する流動的な時代ですから、身分によらない能力主義という新しい発想が出てきたのでしょう。「劣勢の南朝を立て直すためには、人事政策をきちんとやらなければいけない」という文脈の中での話ですが、業績があっても品性下劣な人間に誰もついていかないのは、現代においても同じです。

現代に似ているといえば、日清戦争前の国際情勢と、最近の日中関係もそうです。南シナ海の島々を埋め立て、軍事拠点化している中国の海洋戦略と朝鮮半島への勢力拡大の影響を、日本はじかに受けています。

現在の中国の軍事力は、まだアメリカを脅かすまでに至っていないので、米中の緊張は主として経済面です。軍事力の脅威を受けるのは日本。ではどう応じていくべきなのか。結論としては、日中の衝突を避けることが死活問題になると思います。中国の海洋戦略に、日本はもはや対抗すべきではありません。逆説的ですが、一帯一路構想に乗っかってしまえば、脅威は脅威でなくなるのです。2020年4月の習近平国家主席の訪日で、日中間の「第5の政治文書」を作ることが、非常に重要です。そこで国際分野における協調を謳えば、日中関係は安定化していくはずです。