「5年程度の修業期間」を我慢できなくなっている
「今どきは集客と美容師の確保、2つを同時に満たさないと美容室の経営は難しい」と富成氏は話す。
拘束時間が長い割には給与額が低い美容業界は、このところ人手不足にも喘いでいる。厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(2018年度)によると、理・美容師の平均年収は約302万円で、就業者平均の441万円(国税庁「平成30年分民間給与実態統計調査」)より139万円低い。これまでは独立するまでの修行期間として受け入れられてきたが、最近では自分の店を持っても厳しい。徒弟制度で長期間かけてスタイリストを育成するやり方は通用しなくなってきている。
「以前だったら、カットができるスタイリストになるまで少なくとも5年程度の修業期間が必要でした。しかし、今は平均3年。早いところでは、半年から1年でカットデビューさせる店もあります」(富成氏)
離職を防ぎ、採用をしやすくする意味で、早期育成は業界全体のトレンドだ。それでもなお徒弟制度にこだわれば、アシスタントの確保は難しいという。
ネイルやまつげエクステは「専門店」に移行
独立のしかたも従来とは違ってきている。経営環境が厳しいにもかかわらず店の数が増えている主な要因は、店舗の「小型化」が進んでいるためだ、と富成氏は見ている。
「集客競争が激しくなってきているのに加え、スタッフを雇うのも難しいという状況のなか、独立する美容師の多くがリスクを避け、小さく出店する傾向が強まっています。その結果、市場規模としては頭打ちなのに店の数は増え続けるという奇妙な現象が起きているというわけです」
大型店が増えたのは、業界が「カリスマ美容師」ブームに沸いた2000年頃のこと。当時は店を出せば出すだけお客さんと美容師が集まったため、単店舗の収益を最大化できる大型店化が進んだ。広告宣伝費や家賃、マネジメントコストは多店舗になるほど発生しやすくなるので、大型店化することで単店の収益性を最大化できた。
それから約20年経過し、少子高齢化や人口減少で状況は一変。一時期は大型店にネイルサロンやエステ、まつげエクステなどを併設する動きも盛んだったが、今ではすっかりそれぞれの専門店に押されている。「なかには店を閉じるにも解体などの費用に200万円から300万円はかかるため、閉じるに閉じられない店もある」という。