食べ物に注意していた知人が、あっさりとがんで死亡

たいていのがんは一人前になるのに少なくとも10年以上はかかります。子どもの頃から野菜や果物を多めに摂るなど、リスクを下げることが確定的、もしくはほぼ確実な食生活や運動習慣を日々取り入れることが大切です。

だからといって、神経質になり過ぎてもいけません。私のようなお酒好きではないが“飲んだら飲める”体質の人にとっては、お酒を飲むと口腔・咽頭・喉頭、食道、乳房でがんリスクが増すと言われれば、なるほどお酒の量を少し控えたほうがよさそうだ、とは思います。しかし、これを食べたらがんリスクが低下すると言われても正直ピンときません。効果があるとはいえ、それがいかほどのものかと思わないでもありません。

私の知人でがんになるのは嫌だと言って、食べ物には最新の注意を払っている人がいました。やれ野菜がいいだの、カロテノイドがいいだの、トマトはリコピンが多いのでがんを予防するだの騒いでいましたが、50代で肺がんが見つかりあっさり亡くなりました。そうした苦い経験があるせいかもしれません。

「罪滅ぼし」は逆効果

後になって、ヘビースモーカーが野菜や果物に含まれるβカロチンを摂ると、逆に肺がんが増えるという研究結果が報告されました。日々の食べ物ががん予防に大切なのはよくわかります。そのための研究が進められているのも理解しています。しかし、がんになりやすい要因は「食べ物」以外にもさまざまなものがあります。

私は、リスク増が確定的あるいはほぼ確実な食べ物は避けたほうがよいと感じていますが、好きな食べ物を我慢してイライラするのも身体によくないと思うのです。ストレス解消のためにせめて食べ物くらいは好きなものを食べてもいいのではないでしょうか。

ただ気をつけていただきたいのは先述のように、例えばヘビースモーカーや大酒家、まったく運動をしない怠け者が、罪滅ぼしにβカロチンを多く摂ったりウコンを過剰に摂取したり極端な断食を行うといったことが、往々にして発がんを促進したり、逆に肝機能異常を起こしたり、体調を崩すことにつながったりするものです。悪いことやよくないことはまず避けて行わないことが肝要というのが私の意見であり外来患者にもそのように指導しています。