「東大法卒」だけではないキャリア組官僚の世界

キャリア組官僚と言えば、なんといっても「東大法学部卒」である。「国家公務員試験合格→中央官庁→課長・局長・次官と出世レース」というイメージが強い。しかし国家公務員総合職(旧:一種)試験では、「法律」「経済」のような人文系のほかに、「工学」「物理」「化学」「自然環境」のような理系分野も募集されている。

おおまかに言えば、人文系は事務官として広い知識が要求され、理系は技官として専門分野の深い知識が要求される。そして医系技官とは、「医師免許を持った国家公務員総合職」であり、国家公務員試験なしで厚労省キャリア組としての就職試験を受けることができる。

医系技官とは「医師」と「官僚」の最強ハイブリッドである

医系技官の採用は厚労省が窓口となっており、その数は現在約280人。厚労省本省や地方厚生局、検疫所などの付属機関で働くケースが多い。内閣官房や環境省、文科省などに出向するポストもあり、国立病院やオリンピック組織委員会、さらには国連、世界保健機構といった国際的分野で活躍するコースもある。

もちろん厚労省には法学部卒の事務官も勤務している。記憶に新しいのは、2017年6月、秘書を「このハゲー!」と罵倒するパワハラ音声を『週刊新潮』に報じられた豊田真由子元衆院議員だ。豊田氏は、「東大法学部卒→厚労省入省→ハーバード大院留学」という経歴で、キャリア組官僚として典型的なキャリアパスだった。

かつて医系技官は、「出世しても局長レベルまで、官僚トップの事務次官には事務官でないとなれない」と言われてきたが、2017年には次官級の医系技官ポストとして「医務技監」が新設されている。

しかしながら、「医師として成功」「官僚としての出世」を両立することは困難だ。

初代医務技監の鈴木康裕氏や、新潟県副知事を務めた北島智子氏など「厚労省内の出世コース」を歩むには、医学部卒業後に医師キャリアを重ねるよりも「卒業してすぐ中央官庁に入り、官僚として多様な部署を経験」する「生え抜き組」が有利である(図表参照)。

著名医系技官

一方で「感染症対策」「国際貢献」など、医師キャリアを積んだ後に担当したい職務を明確にして入省する「中途採用」パターンもあるが、こちらは出世も限定的であり、数年間の医系技官経験の後には病院や研究機関などに再度転職するケースが多い。

『週刊文春』2020年2月13日号が報じた「コネクティングルーム疑惑」で、一部のメディアでは大坪氏を「異例の出世」と報道している。確かに、彼女は16年間の医師キャリアを経てからの中途入省にもかかわらず、2015年に内閣官房に出向した直後に審議官という主要ポストに抜擢されている。