武蔵小杉駅前の真下は旧多摩川でした

「多摩川流域は、もともと川だった場所を埋め立てた“旧河道上”にある住宅地が少なくありません。特に、横須賀線の武蔵小杉駅前の真下は旧多摩川でした。偶然にも、19年甚大な浸水被害を受けたのはこの場所に立地していたタワーマンション2棟でした」

さらに、タワーマンションは域内のマンションの中でも甚大な被害をもたらす可能性が高いという。その理由として、電気系統設備が特殊であることが挙げられる。

「タワーマンションの電気系統設備は重厚長大で、高い階数に設置するにはコストがかかるため、大抵地下に置かれます。一般的なマンションでは2階に設置するケースもあります。結果、タワーマンションは浸水被害をモロに受けやすい。さらにエレベーターも特注で造っているため、修繕費も一般的なマンションの数倍かかります。現在、武蔵小杉の一部のタワーマンション管理組合では電気系統を2階以上に置けないかシミュレーションをしています」

浸水被害が起きやすいことに加え、被害額も通常の数倍。そんな「泣きっ面に蜂」状態に陥る武蔵小杉と同様の理由で、自然災害発生時のリスクが高いのが川崎駅前付近だ。

「近年、川崎駅前にタワーマンションが林立していますが、この地域はラゾーナ川崎も含め、多摩川の旧河道が通っていたエリア。災害時は液状化も含め、浸水被害が発生する可能性が高い」

首都圏を流れる河川の中でも、多摩川はいまの流路よりもかなり蛇行していた河川の1つ。川崎駅が位置する幸区一帯は氾濫平野だったという。

「明治以降、首都圏全域で河川整備が進み、人が住み始めたエリアです。その後高度経済成長期に埋め立てた場所に工場が立ち並び、1990年代のバブル期に工場を閉鎖し、再開発でマンションを建てている。そのため、いまの住民にとっては土地の履歴が読みにくくなっているのが最大の問題です」

武蔵小杉や川崎駅前は、まさに土地の履歴が把握しにくく、そのため住民にとっても災害リスクが大きい街になってしまったのだ。

「さらに、マンション購入者にとって問題なのが、高台でも、浸水可能性の高い後背低地や湿地でも、同じ地名ならば不動産価格に差がないことです。浸水被害が発生したときにかかるコストは、前者と後者では数倍変わってきますが、それが積立費に見合っていないのです」

同様に、旧河道域を再開発したため、浸水可能性が高いエリアとして数えられるのが北千住、南千住だ。