「人生一度きり。じき死ぬんだから今のうちに好きなことさせてくれ」

実さんも「支出を少し控えてみては」と進言するのですが、のれんに腕押しです。父親の隆さんはこう返してくると言います。

「人生は一度きり。じき死ぬんだから。元気なうちに好きなことをして楽しませてくれよ」

もう少し年を取れば体力減退とともに活動が減って自然と支出も減るだろうから、会長職の報酬カットも待ってほしいと言います。

年配の男性と息子
写真=iStock.com/JGalione
※写真はイメージです

双方の言い分はわかります。ただ、このままでは会社の経営が傾き、会長職の報酬だけでなく、社員の給与も払えなくなるかもしれません。そう言われて息子に頭を下げられた隆さんは、「会社の未来のためにも、ここは会長職の報酬は2年後まで受け取り、以後は辞退するしかない」と考え直しました。

息子と社員をおもんぱかった判断ですが、2年後からは月18万円の収入がなくなるので、今のような浪費を続けることはできません。そこで私のところに相談に来たというわけです。

現在の貯蓄3500万円は84歳までになくなることがわかった

私は72歳で会長報酬が打ち切られる前提でのライフプラン表を作成しました。生活費に年間のおおよその特別出費(旅行代、冠婚葬祭費、家電買い替えなど)を加えて計算すると、このまま月40万円超の支出を続けると、現在の貯蓄3500万円は84歳までになくなることがわかりました。

一方で、食費(月10万7000円)や交際費(4万円)などを見直して、月に計10万円分のコストを下げられれば90歳まで貯蓄はもちます。また、保有している保険を解約すると(400万円)と92歳までもちますし、所有するマンションを売れば約2000万円が手に入るので98歳までもちます。もし、途中で生活費が自然に減ればもっと貯蓄は長持ちするでしょう。

試算結果を伝えると、「そんなに大丈夫なら、もう、大往生を目指すしかない!」と隆さんは安心した様子ですが、これはあくまで「生活費を下げることができたら」ということが前提です。

実際には、隆さんは支出を下げる策をほとんど持っていません。なぜなら、「いまさら自炊は難しく、友達に元気である報告はし続けたい(=いまの遊びは続けたい)」からです。

暗礁に乗り上げたかに見えましたが、ここで幸い助け舟がありました。