IT化で業界の縮小を止められるかもしれない
武井社長は、IT企業勤務を経て、2014年9月に同社を起業した。IT企業に勤務していた頃は、将来自分が花に関するサービスを展開するとは夢にも思っていなかったという。花に関心を持ったきっかけは、退職時にもらった花束だった。
「それまでの経験をいかし、起業をするならインターネットなどのオンラインを活用して店舗へ消費者を呼び込むO2Oの事業に取り組みたいと考えていました。そこで、IT化によって変革を起こせそうな業界を探していたところ、花束をもらう機会があり、『花の業界で起業しよう』とひらめいたのです」(武井社長)
もちろん、花の業界が縮小傾向にあることは知っていた。しかし、武井社長はビジネスチャンスを見いだし、あえて飛び込んだ。
「IT化の遅れと業界の縮小は必ずしもイコールだとは言えませんが、影響があると思っています。異業種から参画し、既存の店舗や業者の皆さんと提携してIT化を進められれば、縮小に歯止めをかけられるかもしれない、というのが最初に見えたビジョンでした」(武井社長)
花のロスが多く、収入が不安定な生花店
起業にあたり、さらに業界全体の調査を進めていくと、いくつかの課題が見つかった。まず、花の業界には効率化の余地があるという点だ。
農林水産省の「花きの現状について」に記載されたデータによれば、花の小売価格に占める小売経費は48.1%。花束への加工や商品ロスが多いため、青果物の倍の経費がかかるからだ。
さらに、花は品目や品種が非常に多く、小売構造が零細であることから、ロスを減らすためのデータが共有されていない。売れ行きや花の品質保持期間に関するデータもないため、多くの生花店が手探り状態で自身の経験をもとに店舗を経営しているのが現状だ。
また、街の生花店は商圏が狭い。購入者は近隣住民や店舗付近で働く人のみ。公式サイトを持たず、SNSも活用していない店舗が数多く存在する。どれほど魅力的なアレンジメントができても、認知度が低ければ売り上げを伸ばすのは難しい。
収入面の課題もある。花を使ったギフトが増える母の日や敬老の日、クリスマス送別会シーズンなどは売り上げが伸びる時期だ。しかし、花が弱りやすい夏は収益が伸び悩み、ロスも増えてしまう。月ごとの収入は不安定だ。
これらの課題と向き合うにあたり、武井社長は自ら花を仕入れて売るのではなく、既存の生花店と提携する道を選んだ。業界そのものを壊そうとすればするほど、反発も強くなる。武井社長はIT化によってマイナス面の改善を提案する形で、ともに伸びていくための方法を模索した。