行政手続きの99%が電子上で済む

エストニアでは、一般的な行政手続きの99%を電子上で申請することができる。デジタル申請の対象外なのは結婚・離婚・不動産の登記のみだ。

申請を行えるポータルサイト「eesti.ee」では、ログインする際、デジタルIDカードを使ったログイン方式が要求される。実際、ログインページにアクセスすると、デジタルIDカードのPC端末への接続、そして4桁の暗証番号の入力が求められ、両者が確認されるとログインに進む設計だ。デジタルIDを使ってログインすることで、電子上で「あなたであることの証明」ができるため、役所に行かずとも、同ポータル上からさまざまな行政手続きの申請を行える。

eesti.ee」のログイン画面

同様に、デジタルIDのログインへの活用は銀行などの民間企業でも進んでおり、ID・パスワードを使った一般的な認証手段を廃止している企業もある。

別の例を挙げよう。エストニアではデジタルIDと連携する電子契約プラットフォームソフトウエア「DigiDoc(デジドック)」を用いることで、無料で電子契約を結ぶことができる。一連の流れとしては、書類ファイルをアップロードして電子契約が可能なコンテナファイル(.asiceフォーマット)を生成した後、デジタルIDカードを読み込ませてあらかじめ設定した5桁のPINコードを入力して電子署名を行う形だ。

デジタルIDを用いて電子契約することで、「契約者があなたであることの証明」ができる上、どの時点で署名されたのかを示すタイムスタンプが記録される。そのため手書きのサインやハンコでの契約に潜む「なりすまし」や「改ざん」のリスクを、極端に低減して電子契約を結ぶことができる。

これらのように、エストニアの日常生活にデジタルIDは溶け込んでおり、具体例は枚挙に暇がない。次に、デジタルIDがある生活によって、生活者と企業が享受できるメリットをそれぞれ紹介していこう。

生活者側のメリット—有給休暇を使った役所巡りが不要に—

①申請手続きのための外出が不要になる
ここまで再三述べてきた通り、デジタルIDとは電子世界の身分証明書である。つまり、対面での確認をしなくてもデジタル上で「本人確認」ができるようになり、これまで必要だった役所や店舗での本人確認が不要となる。申請のために有給休暇を使って役所巡りに、みたいなことも不要だ。

②財布がスリムになる
日本人の財布の中には、スーパーの会員証、病院の受付証、免許証など、それぞれの会員証が別々のID番号で管理されている。その結果、日本人の財布はパンパンに膨れ上がり、会員証の管理だけでバインダーが必要になるぐらいだ。一方、デジタルIDが普及すれば、デジタルIDカードをそのまま会員証とする企業が増え、日常的に携帯する必要があるカードは数枚レベルとなる。

③情報の入力が一回で完結する
エストニアでは、「一度聞いた情報は二度と聞いてはいけない」というワンスオンリーの原則がある。生活者がデータの利用に同意すると、企業は、名前、生年月日、住所などの必要な範囲のデータを、行政のデータベースから引用することが可能になる仕組みだ。つまり生活者は、デジタルIDを提出するだけで、そのほか基本的な個人情報を入力する手間が省ける。たとえば、役所での行政手続きや引っ越しの際に、同じ名前や住所を幾重として書く必要がなくなるというわけだ。

④パスワードを覚える必要がなくなる
上述したポータルサイトeesti.eeに代表されるように、デジタルIDカードが普及すると、同カードを用いたログインが可能になる。デジタルIDの暗証番号はログイン時に要求される4桁のPIN1、電子署名時に要求される5桁のPIN2の2つが利用されるため、サービスごとで暗証番号が変わることもない。したがって、「このサイトのパスワードなんだっけ……」と頭を悩ませる必要もなくなる。