閉店に追い込んだ本部の自己都合

閉店に追い込まれた原因は、地域に集中して出店する「ドミナント戦略」というものである。特定の地域に集中出店することで、ライバルチェーンを追い出し、地域での優位性を確保することが狙いである。すべてが直営店だったら、店同士が共食いを起こしてしまうので、採算が合わない。

ところが、「コンビニ会計」等のおかげで、本部は店を出せば出すほど儲かる仕組みになっているため、こんな戦略が可能になるのである。オーナーたちは近隣店舗と共食いを強いられ、売上はどんどん落ちていく。

敏雄さんの店舗もドミナント戦略の実施前は好調な売上を記録していたが、ドミナント戦略実施後はみるみる売上が落ちていった。敏雄さんの妻の政代さんは、アルバイトの給料を払うため、コンビニのシフトに入る傍ら、別のドラッグストアで働いていたという。

近隣店舗が時給を上げたため、アルバイトの獲得競争にも敗れ、シフトは家族で埋めるしかなくなっていった。齋藤夫妻の2人の息子たちも学業の傍らコンビニを手伝った。長男の栄治さんは、大学に行く資金が無いため、進学を諦めた。将来を悲観したのか、栄治さんは2014年9月、コンビニの夜勤後に自ら命を絶った。

コンビニに破壊された店主一家

まさに地獄のような状況である。その後、耐え切れなくなった妻と次男はコンビニから手を引き、敏雄さんと別居した。それでも敏雄さんは営業を続けたが、突然、2019年2月28日になって本部から閉店通知を受けた。敏雄さんは翌日失踪。約1カ月後の3月26日夜に北海道旭川市内で警察に保護された。

敏雄さんは「寒いところに行けば、持病の心筋梗塞で死ねるかもしれないと思い向かった」と言ったそうである。現在、敏雄さんの店があった場所の半径200メートル以内に、セブン‐イレブンの店舗が4つもあるという。異常な「ドミナント戦略」が、家族を破壊したのである。政代さんは言う。

「長男まで亡くしながら必死で働いたにも関わらず、結局店も取り上げられ、夫も追い込まれた。本部はまったく血も涙もない、とんでもない会社だとわかった。本当に許せない。少しでも加盟店の働きに報いる気持ちがあるなら、その行動を取って欲しい」

なお、敏雄さんは、同年7月11日、遺体で発見された。死後数日が経過しており、死因は不明である。

皆さんはどう思うか。これを「自己責任」と切り捨てられるだろうか。「ドミナント戦略」で地獄に追いやられたことは、自己責任の範疇に入るだろうか。私はそうは思わない。ドミナント戦略自体、コンビニ会計をはじめとする異常な搾取構造があるからこそ成り立つものである。

コンビニ本部の利益は、オーナーとその家族の命を削って生み出されていると言うべきである。こんな状況を、許しておいて良いだろうか。