インスタ映えするビジュアルがウケた

副菜の存在にも注目したいところです。

ワンプレートの中にサラダや野菜の惣菜が添えられており、栄養バランスがいいことも、広く受け入れられた要因だと考えられています。

さらに、複数のカレーソースや副菜が皿に彩り良く盛られているさまは、いわゆる「インスタ映え」するビジュアル。このビジュアルがSNSを通じて急速に広まったことが、ヒットにつながったという見方もあります。

スパイスカレーは、メニュー化した外食店が100店舗を超えた大阪や東京を筆頭に、北海道や愛知、福岡、福島などの店でも扱われるようになりました。

北海道では、「札幌スパイスカレー」という新ジャンルが生まれるなど、各地域の特色に合わせてアレンジされる動きが見られました。

さらに、ハウス食品から「スパイスフルカレー」が発売されるなど、大手食品メーカーもスパイスカレーを商品化。家庭の食卓にもスパイスカレーが浸透していきました。

プロ以外の人たちが自由な発想で生み出した

では、なぜスパイスカレーは大阪で生まれたのでしょうか?

井上岳久『カレーの世界史』(SBビジュアル新書)

その秘密は、大阪ならではの自由な発想にありました。

大阪では、料理を本業としない人たち(元ミュージシャンや元クリエイターなど)が自分たちの食べたいカレー、好きなカレーを追求して出店し、その結果、人気を得た店が多いのです。

プロの料理人は、どうしても「こうでなければならない」という固定概念にとらわれがちですが、料理を独学で学んだ人たちにはそうした思考的制約はありません。より自由な発想があったからこそ、独創的なカレーが生まれたのです。

また、通常、カレーの店を始めたければ、開業資金を貯めて、空き物件を探し、内装を整えてオープンする……という手順を踏むでしょう。

ところが、大阪では、夜間に営業するバーを昼間だけカレー店にするなど、柔軟な営業形態で始めた店舗が多かったのです。こうした背景もあって、思いきったメニューを打ち出すことができたのでしょう。

そんな考え方は、お店の営業方針にも表れました。

納得する味ができなかった日は店休日にしたり、営業時間を極端に短くしたりと、メニューの内容と同じように、店主の営業方針も自由そのもの。一見すると型破りな印象を受けますが、大阪にはそうしたことを笑って受け入れる土壌があるのです。

既成概念にとらわれない、独創性あふれる大阪のカレー文化。この先もどんなカレーが生まれるのか、要注目です。