これからは世界レベルの紛争が待っている

ですから、我々は今、非常に危険な地帯に足を踏み入れています。どこが大国になるかではなく、どこも大国になれないということなのです。それによってさまざまな矛盾が生じてきます。インフラ、気候変動、環境、貧富の格差といった長期的な問題に誰も関心を持たなくなり、いろいろな問題があるのに、そういうことをやってくれる人がいないということになるのです。それによって世界的な紛争が多発するでしょう。

これが私の言う4つ目の段階です。世界レベルでの紛争が我々を待っていると思います。

我々は予見することはできません。例えば先の第1次・第2次世界大戦の勃発は予見できませんでした。第1次世界大戦が起こる前にも世界的な機関をつくろうという動きがありましたが、結局はできませんでした。第2次世界大戦が始まる前から国連の必要性がいわれていたにもかかわらず、これもできませんでした。それと同じように、国家が支配するのではなくて、新しいチャレンジをしてくれる世界的な機関をつくらなければいけないということは誰もが考えますが、結局は世界的な戦争があった後にできるのです。

新しい問題に取り組むためには、本当にグローバルな組織が必要です。環境問題、技術のコントロール、遺伝子技術、それから人工知能(AI)が支配力を持って人類を変えてしまうかもしれません。技術をコントロールすることは必要で、それによって自然破壊を防ぐことができます。

環境問題や気候変動というのはこの危険な問題のごく一部でしかない、小さな問題です。例えば生命も新技術も全てが人工的になるかもしれません。そのような問題を考えなければいけません。そのためには世界的な組織が必要なのです。

欧州が挑戦した新たな大陸秩序が求められる

――今後起きうる危機に対応するためには新たな国際的な機関が必要だと訴えるアタリ氏。しかし、過去の歴史では国際連合などの機関は戦争という破局の代償としてつくられたことが多い。戦争を回避しながら危機を回避する先例はあるのだろうか。

かつて、ある1国がリーダーとして存在したことで国際秩序があった時代もありました。ある1国がリーダーとなって国際システムをつくりました。16世紀でも、18世紀でも、征服者となったところが国際システムをつくりました。それは先の第1次、第2次世界大戦でも同じかもしれません。

今は新しい世界的な組織が必要ですが、リーダーがいません。これはボトムアップということでもないのです。ボトムアップで世界組織をつくるのは難しいことです。その例は2つしかありません。1つはスイスです。スイスはボトムアップでつくられましたが、それには4世紀かかりました。今の我々には4世紀もの時間の余裕はありません。

もう1つの例は、ヨーロッパ諸国がつくろうとした新しい大陸秩序です。これもボトムアップです。しかし、それは非常に難しかったのです。これが成功すれば、世界にとっても良いことです。我々はヨーロッパがやろうとした難しいことを世界レベルでやらなければいけないのです。

(構成=プレジデントオンライン編集部)
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