宗教団体に属する中国人は2億人を超えた

【佐藤】さて、習近平が、いざ「新長征」へと呼びかけても、いまの中国の人々が、果たしてついていくのか。国家として、アメリカと長きにわたる戦いを続けるにあたって、それが問われています。

そして、習近平が中国の様な国をひとつにまとめていけるのかも定かではありません。かつては、毛沢東思想やマルクス・レーニン主義という「無神論という名の宗教」がありました。それが崩れたところで、中国をまとめるのに何が出てくるのか? これも習近平の中国にとって極めて重い課題です。

中国の内政に詳しいジャーナリストの福島香織さんが『習近平の敗北』(ワニブックス)という本に、2018年に中国政府が宗教に関する統計を出したことを紹介しています。それによると、キリスト教の信者や仏教徒など公認の宗教団体に属している人が、なんと2億人を超えるというのです。非公認の信者を入れると、この二倍以上いるという推計もあるようです。

4億人の人間が真面目に宗教を信じている——。この世俗化した世界で、それなりのパワーになりえます。そういう実態も踏まえて、中国のイデオロギーがどういう方向に向かっていくのか。これからの中国を考える場合、イデオロギーや宗教の問題は避けて通れません。

「荒唐無稽な信仰」がアメリカを動かしている

【手嶋】とりわけ、現代の中国ではそうだと思います。広大な国土、世界一の人口、多様な民族、さらには、インターネット空間を介して様々な思想の潮流に触れている若者を抱える中国にとって、それを束ねる思想なくして、この国を統治していくことはかなわない。そのことをいまの習近平政権は、誰よりも肝に銘じているはずです。

【佐藤】一方のトランプにも「イデオロギー」はあるのです。地図上に存在する現実のイスラエルと、『聖書』に語られている、終わりの日がやってくるイスラエルを重ねてしまうわけです。イスラエルのために何かをやっている。それは十分に宗教的な意味を持っているとトランプは堅く信じている。でも、キリスト教右派の中では、ユダヤ教徒はやがて全員がキリスト教徒に改宗する。キリスト教右派の人々は、そう信じています。荒唐無稽と思うかもしれませんが、そんな荒唐無稽な信仰が、超大国の政治を突き動かすドライビングフォース、推進力になっているのが、21世紀の現実なんです。

【手嶋】まさしく、信じるものは救われる、その力を無視するわけにはいきません。