資本主義で必要な「利他主義」とはなにか

脳科学者の茂木健一郎は、「100億円拠出」をこう解説する。

「孫さんの人生を見ていると、翻訳機をつくって、出版社をはじめて、ブロードバンド、インターネットでどんどん事業を拡張しました。最後にはVodafoneの巨額買収まで。ステージごとにまったく違った自分に変わるということを続けてきた人なんです。今までの自分を壊して新しいステージへ行くことができる人は危機に強い。孫さんが危機にこれだけ活躍できるのもそのせいでしょう。

人間、若いときには、どうしても自分の幸せを追求してしまうものです。しかし、それではいつか行き詰まってしまう。発想を変え、みんなの役に立ちたい、社会の幸せを実現したいと考えたときに、初めて人間は輝けるようになる。いわゆる利他主義です。利己主義を徹底したほうがお金が儲かると思うのは間違っています。不思議なことに、利他主義を貫くことで、人も、会社も大きくなるし、結果として自分も幸せになり、経済的に潤います。孫さんはそこまで計算してはいないでしょうが、今回の100億円を拠出した理由も、自分の原理原則を守っただけで、ごく自然な発想なのだと思います。結局のところ、資本主義での成功には利他主義が生む『信頼関係』が必要なのだと思います。現代社会において、信頼は一番大事なインフラです。利己主義が蔓延する会社同士では、ネットワークが脆弱になってしまい、最大限の実力を発揮できません。孫さんは経験則からもそれを知っているのでしょうね」

情報通信というネットワークを司るビジネスの基盤は、ユーザーとの信頼関係なのだ。偉大な行為には、本人の思惑とは別のところでさまざまな雑考が立つ。毀誉褒貶も当然のように湧いて出る。ただ、この国が復興を成したとき、孫が拠出した義援金100億円という事実だけは忘れ去られることなく残るだろう。(文中敬称略)