夫婦こそ距離を保つことが大事

他人からどう思われようと、生き方は人それぞれ自由です。極端な話、自分がストレスを感じないなら、まったく人と付き合わなくてもいい。SSSの会員でも、そういう生き方を貫いている方がいらっしゃいます。

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四国在住の90代の会員で、毎年事務所に伊予柑を送ってくれる一人暮らしの女性がいました。ある年、伊予柑が届かず電話もつながらなかったためご自宅を訪ねたのですが、玄関には鍵がかかり、大声で呼んでも応答もありません。いよいよ心配になって、唯一開いていたサッシから家の中に入ってみると、奥の四畳半から薄明かりが漏れているのを見つけました。

うす暗い部屋をのぞいてみると、電気ストーブの前に、彼女は身動き1つせずに座っているではありませんか。驚愕したのは、毎日の食事は誰かが運んでくれているので、彼女自身は3年間家から一歩も出ず、人と話すこともなく過ごしていたことです。彼女は「寂しいって思ったことなんか、1度もないわ。私ね、友達も知り合いもいないけど、全然寂しくないの」と言って微笑みました。

思い返せば、会員になったときから彼女は「友達も頼る身内もいない」と言っていました。つまり、彼女は我々に伊予柑こそ送ってくれていたものの、若い頃から人を求めることなく生きてきたのです。だから1人で部屋にじっとしていることに何ら孤独を感じることなく、自分の思うように静かに生きているのでしょう。

周囲から見れば彼女は「かわいそうな孤独老人」かもしれませんが、本人が幸せならそうした生き方もいいのだ、と私も考えを改めました。むしろ「友達が欲しい。でも、1人の時間も欲しい」などと言って不安を抱えている私たちのほうが中途半端なのではないかとさえ感じました。

私は彼女ほど割り切った人生を歩めませんし、独身の方でも一人暮らしの方でも、社会に生きている以上、人付き合いは必要だと思います。とはいえ、せっかく独り身を謳歌してきたのに、こじれたら不安を増幅させてしまうような人間関係にこれからどっぷりつかるのはごめんです。だから、「60代になったら、趣味を複数見つける。人付き合いの距離を上手に保つ」という道を選びました。

特に、夫婦こそ距離を保つことが大事です。夫は没頭できる趣味を持って家を留守にすれば、逆に妻は夫のことを気にするものです。「もう浮気できるような年齢じゃないのに、あの人は何をしているんだろう?」って。孤独は至福の時間ととらえて、自分の趣味のために時間やお金を使う。1つに固執しないことで、孤独を愛することができるようになり、また新しい風が入ってきます。それこそが楽しい老後といえるのではないでしょうか。

(構成=干川美奈子 撮影=初沢亜利 写真=Getty Images)
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