女性スタッフと仲良くなり過ぎて失敗

実のところ、私も十数年前、SSSを手伝ってくれていた女性スタッフと仲良くなり過ぎて失敗しました。話も感性も合うスタッフで、食事も旅行も誘えば喜んで来てくれる、いい師弟関係・友人関係を築いていると思っていました。「生涯一緒のアシスタントに、幾ばくかでも財産があれば残してあげよう」とまで考えていました。

作家 松原惇子氏

それが、しばらくたつとお互い甘えが出てきて主従関係は逆転、彼女の存在が重たくなり、気づけば顔を見るのも嫌に……。

そうなると活動にも支障が出て「身内みたいな感覚が一番嫌いでひとりを貫いてきたのに、なぜこんなに苦労するの」と後悔ばかり。ぎくしゃくしてきたので、彼女には辞めてもらいました。

苦渋の決断でしたが、「60代になったら人間関係を整理して、人付き合いの距離を上手に保つことが大事」だと気づくことができました。以降、仕事でも趣味でも、対人関係に深入りしないことにしています。

SSS、スポーツジム、シャンソン教室、バレエ教室でそれぞれに会話を交わすスタッフや友人、顔見知りがいます。彼らとはその場では和やかに話をしても込み入った話はしませんし、基本的にそれ以外の場所では会いません。

いま通っているジムは理想的で、毎日のように年齢層も幅広いスタッフや常連さんと会話をしますが、私は名前も素性も明かしていません。もちろん相手のことも聞き出しません。だから嫉妬や悪口が起きることもありません。常連のみなさんにとってもこのジムはオアシスで、この空間がなくなってほしくないとお互いに感じているからこそ、自然と距離を保った付き合いをする雰囲気ができているのです。

距離感を保った付き合いに変えたら物事がうまく回るようになったので、最近、生活場所も変えました。購入したマンションに欠陥が見つかったことに加え、母も高齢なので、ここ数年は実家に戻って母と二人暮らしをしていました。母も一人暮らしが長かったので、お互いを干渉しないようにキッチンを別に作り、1階に母、2階に私が住んではいたものの、やはり家は母の城、私は侵入者です。お互いに窮屈さはあり、身内でも近過ぎる関係はよくないと悟りました。

そこで自分の秘密基地を持とうと、書斎として2LDKの賃貸を借りました。戸数が多いので、ご近所付き合いも適度な距離感を保てるところが気に入っています。いまは実家と行き来していますが、いずれここを終の棲み家にしたいと考えています。不思議なもので、ここに住んでから執筆活動も楽しくなってきました。人間にとっての最大のストレスは対人関係ですから、濃い人間関係をやめたことで意識がそちらに向くことなく、創作活動に集中できるようになったのだと思います。

本来、孤独とは上等なものです。SSSへの問い合わせを見ていると、老後の不安で一番難しいのは、お金よりも「孤独や寂しさにどう対処するか」だと痛感していますが、一方で、私を含めて「孤独な老後」を楽しんでいる人も一定数います。幸せな老後を送れるかどうかは、孤独から逃げるのではなく「自分の孤独を愛せるか」なのだと感じます。