高齢者の定義を65歳以上から70~75歳以上に変更したほうがよい?

次に、同じ図表2で、こうした症状の年齢別有訴率の時系列変化に着目してみよう。

2年次(2007年と2016年)を比較すると、いずれの症状についても高年齢シフトが認められる。すなわち、有訴率が高まる年齢が大きく右方向にシフトし、老人特有の症状に悩まされる年齢が高くなってきている。言い換えれば高齢者は若返っているといえる。

高齢者の定義を65歳以上から70歳以上や75歳以上に変更したほうがよいのではないかという議論の際に、よく歩行速度が高齢者になっても以前のように落ちないという調査結果が引用されることが多いが、年齢別の有訴率の変化でも同じことが言えるのである。

図表に示したデータから2007年の65~69歳の有訴率が9年後の2016年の何歳年上に匹敵するかで若返りの年齢を試算してみると、以下のように「腰痛」は2.0歳の若返りとあまり変化がないが、目のかすみでは7.9歳も若返っている。

次に、若返りを示すこうした高齢者の有訴率の改善が、最近だけの現象なのか。それとも長く継続している現象なのかを把握するため、65~74歳の有訴率の動きを、データが得られる1998年から調査時点ごとに指数で追ったグラフを掲げた(図表3参照)。

高齢者の有訴率の長期推移(指数)

「もの忘れ」を訴える65~74歳が2007年以降に急減

これを見ると「もの忘れする」は1998年から2007年までほぼ横ばいだったが、それ以降、急速に、かつ大幅に有訴率を低下させてきているのに対して、その他の3つの症状(「腰痛」「耳がきこえにくい」「目のかすみ」)については、ほぼ、1998年以降、一貫してだんだんと有訴率が低下してきていることがわかる。ただし、「腰痛」は「耳がきこえにくい」や「目のかすみ」と比べて有訴率の低下幅が小さい点が目立っている。

ここからは憶測になるが、「もの忘れする」は、認知症につながることが懸念される症状なので、近年、だんだんと認知症予防の意識が強まるのに伴って急速に改善してきているのではなかろうか“dementia”に対応する言葉としてそれまで「痴呆」と呼ばれていた症状が厚生労働省によって「認知症」という用語に名称変更されたのは2004年であった。

あるいは高齢就業が増加している影響という見方もできる。何らかのかたちで64歳までの雇用を企業に義務づける改正高年齢者雇用安定法が施行された2006年を境に、60歳代後半までの高齢層の労働力率はそれまでの低下傾向から上昇傾向に転じた。高齢者は「もの忘れ」などしていられない状況になったのかもしれない。