サイコパスに特徴的なパーソナリティとは

君だったら、レイナの態度をどう受けとめるだろうか。

たしかに、他人の気持ちがわからないとか、共感できないというのは、「サイコパス」の特徴と言われるものだ。せっかくみんなが盛り上がっているのに水を差すような行動をとるレイナは「サイコパス」なのだろうか。それとも、クラスメイトの捉え方のほうに問題があるのだろうか。

ただ、ここではもう一歩、踏み込んだ問いを設定してみたいと思う。

そもそも、他人に共感する必要はあるのだろうか?

共感できることは、いいことなのだろうか?

一般的に「共感できること」は良いことだとされているが、あえて考えてみてほしい。常識を問い直してみることから哲学ははじまるのだから。

この問いに答えるためにも、まずは「サイコパス」という概念を正確に理解していこう。

そもそも「サイコパス」という言葉は、いつから使われるようになったものだろうか。実はこの言葉は、精神医学の世界で使われはじめたもので、「反社会性パーソナリティ障害」に該当するとされている。診断は『HARE PCL-R第2版テクニカルマニュアル』という20項目のリストにもとづき、専門家が行う。

この言葉を一般レベルにまで広めたのは、猟奇的な連続殺人犯エド・ゲインをはじめとする、史上まれにみる犯罪者たちであろう。

しかし、「サイコパス」と呼ばれる異常犯罪者は非常にまれな存在であり、北米でもおそらく100人もいない、と言われている。それほど特殊な存在のはずなのに、一般の人たちが、身近な隣人を「サイコパス」と呼んではばからない現状はなんとも奇妙である。

「サイコパス」とは具体的にどんなパーソナリティを持った人物なのか、実際の診断項目の一部を簡単にまとめてみた。

・口達者で皮相的
・自己中心的でナルシスト
・良心の呵責かしゃくや罪悪感の欠如
・共感性の欠如
・感情が薄っぺらい
・異常なまでにウソをつくクセ
・衝動的な行動
・自分の行動をコントロールできない
・常に刺激を欲している
・責任感の欠如
・抵抗なく人を操る
・少年時代に犯罪歴がある
・仮釈放取り消しなどを受けた経験

「サイコパス=異常犯罪者」というイメージは誤解だ

当てはまる項目が多いほど、ある人のサイコパス傾向(サイコパシー)は高いと判断される。そしてここが厄介な点なのだが、これらの項目のほとんどは内面的な評価に関わるものであり、明確な「犯罪」に関わる項目は数個しかないのである。

要するに、異常犯罪者にも当てはまるけど、一般的な人にも当てはまりそうな項目が並んでいるのだ。たとえば、他人に冷淡な人も、口達者でウソつきな人も、私たちの周囲には当たり前にいる。そして、その人たちがみな「異常な犯罪」に及ぶとは限らない。

実際に、アメリカでは「サイコパス」は人口の数%、多いときで10%は存在すると言われている。つまり10人に1人だ。日本の場合はもっと少ないようだが、それでもざっくり、100万人は超えていると考えていい。先ほど、「サイコパスの異常犯罪者」の数は北米に100人もいないと言ったが、それよりも多いのである。

この段階でわかることは何か。「サイコパス」は歴史的に異常犯罪とセットで語られることが多かった。そのため「サイコパス=異常犯罪者」というイメージが形成された。しかし、診断基準を見る限り、「サイコパス」とはもっと広い概念であり、この社会のどこにでもいるような特徴を備えている。その中で、特別に強い「反社会性」を持つ者だけが「異常犯罪者のサイコパス」になるのである。

なので、レイナに関して言えば、たしかに周りの気持ちがわからないという傾向はあるかもしれないが、別にそのことを気に病む必要はないし、それで将来サイコパスの「ヤバい犯罪者」になるとは限らないのである。