サイコパスの診断項目はその人の長所にもなる

「サイコパス」という概念がさらに興味深いのは、最近では彼らが、凡人とは違ってとても高い能力を持った天才として見なされていることである。

たとえば、『サイコパス 秘められた能力』(NHK出版、原書は2012年)という本の中で、心理学者のダットンは、「サイコパス度が高い職業」として10の職業を挙げている。

1.企業の最高責任者(CEO)
2.弁護士
3.報道関係(テレビ/ラジオ)
4.セールス
5.外科医
6.ジャーナリスト
7.警察官
8.聖職者
9.シェフ
10.公務員

これまで「サイコパス」=「異常犯罪者」というように、ネガティブに取り扱われてきたはずの概念が、このリストではまったく違った様相を見せている。むしろ、社会的に見て評価の高い職業がトップに並んでいるのは驚きだ。

CEOや弁護士、外科医やジャーナリストといえば、花形の職業と言っていいし、なんと警察官や聖職者、公務員まで含まれている。とくに後者の職業に関しては、反社会的どころか、人々に奉仕する性質のものではなかったか? どうしてこうした人たちの職業は、「サイコパス度が高い」とされるのだろうか。

要するに、先ほど見たチェックリストの項目のほとんどは、「犯罪」(反社会性)に関するものさえ除けば、その人の強みにも弱みにもなるものなのだ。

たとえば、口達者で抵抗なく人を操れるような人は、セールスマンや信者を勧誘する聖職者などに向いているかもしれない。自己中心的で、良心の呵責や罪悪感、共感性といったものが欠如した人は、経営者としてときに思い切った判断ができるだろう。感情が薄っぺらいのは、逆に言えば冷静沈着に行動できるということだから、淡々と仕事をこなす外科医などにとっては必要な特徴なのかもしれない。

サイコパスは「異常」でもあり「天才」でもある

このように、「サイコパス」は「異常」という文脈で語られることもあれば、「天才」というある種、肯定的な文脈で語られることもある、複雑な評価とイメージをまとった概念なのだ。

職業ではないが、政治家であるヒトラーやスターリン、ノーベル平和賞をもらった修道女のマザー・テレサさえもサイコパスとされているし、「20世紀最大の哲学者」のひとりハイデガーも、心理学の権威であるユングから「サイコパス」のお墨付きをもらっている。こうなるともう、「サイコパスって何?」と言いたくなる。

そもそも「反社会性」という基準もあいまいだ。連続殺人犯のように法律を完全に無視する者もいれば、法には違反しない範囲で他人に迷惑行為を働く人もいる。根も葉もないウワサをまき散らす人、店員に過剰な文句を言う客、お風呂にまったく入らないために強烈な体臭を発する人。

あるいは、実績はあるが部下に厳しく当たる会社員、手術の腕はいいが患者にぶっきらぼうな態度をとる医者、研究熱心だが弟子の面倒は見ない大学教授──身近な人からすれば至極迷惑である。

いったいどこからが「反社会的」なのだろうか。これもまた、「法」という人間が恣意しい的に定めた基準に拠っているにすぎないのではないか。