派遣労働者の過半数が3年たたずに辞める
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派遣労働者の過半数が3年たたずに辞める

処遇面ではレンゴーの子会社ということで、親会社に準じた昇給の仕組みはあったが、福利厚生やボーナス面では明らかに格差があった。例えば労使のボーナス交渉では彼らはかやの外に置かれる。千葉工場長の原田圭亮は「工場内に組合員平均何カ月と労使の妥結額が掲示されても彼らには関係ない。彼らも何も言わないけれども、どういうふうに感じるかを考えると、見えない壁のようなものがあったのかもしれない」と推測する。

しかし今では雰囲気もガラリと変わったという。大坊は「これまでガツガツ言い合えませんでしたが、会社が一緒になったことで、もっとこうすれば自分も楽だし、うまく生産できるんじゃないですか、と言える関係になった」と語る。互いが知恵を出し合うコミュニケーションの活性化は生産性の向上に直結する。実際に千葉工場のロス率は08年度下期までは月によって変動するなど不安定な状態が続いていたが、09年度上期はロス率が低い状態で推移している。

原田は「わずか数%のロス率の改善でも非常に大きい。ただし、それが正社員化したことでそうなったのかどうかはわかりませんが、大坊が言ったように、自分が思ったことを言えるとともに、現場の話し合いができつつあることも大きな要因ではないか」と指摘する。

なぜ「正社員化」で生産性が上がるのか
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なぜ「正社員化」で生産性が上がるのか

変わったのは元派遣社員だけではない。原田は「トラブルが発生しても、レンゴーだからとかレンゴーサービスだからとか、逃げ道というか双方がそういう意識を持っていたのではないか。それが同じレンゴーの社員になったことで一体感が生まれ、レンゴーの社員の意識も変わった」と語る。

大坊自身も今、仕事に対する張り合いのようなものを感じている。将来は何を目指すのか、と聞くと「社長になれるなら、なりたいですね」と言って笑う。

「仕事をする以上、上を目指さないで何するのという気持ちはあります。だらだらやるのも一つの生き方かもしれないが、それでは人生に張りがなくなってしまうじゃないですか。でも今は上を目指すより勉強することがたくさんあります。今は一つの機械の機長をやらせてもらっていますが、まだ、機械はほかにもいろいろあります。多くの機械を覚えていれば、例えば誰かが休んだときに手伝えるとか、皆の役に立てるじゃないですか。段ボールといっても、ミリ単位の誤差も許されないし、まだまだ勉強することがいっぱいあるのです」

コミュニケーションの活性化、技術習得などのモチベーションの向上、そして何より生産現場の一体感の醸成による生産性の向上――。今回の派遣社員の正社員化の効用は大きい。しかし、これは何もレンゴーに限ったことではない。

第一生命経済研究所・主席エコノミストの永濱利廣は「派遣社員は、より労働環境のいい職場を探しながら勤務するため、定着率も悪く、技能の習得もできない。正社員になることで、賃金面や社会保障の面でも労働環境が改善される。企業にとっても人的資本の形成ができるので労使双方のメリット。とくに企業側にとっては定着率の改善により新規採用にかける資金も減り、技能教育に関しても、新しい人が来るたびに行う必要がなくなる」と、その効用を指摘する。

(文中敬称略)