しかし、ハマーショルドは在任中ザンビアで搭乗機が墜落し、不慮の死を遂げます。本書はその死後、彼が書きためていた私的な手記をまとめたものです。63年に刊行されると、世界中で大きな反響を呼びました。当時、大学生だった僕もすぐに本書を手に入れ、夢中になって読みました。

心が洗われる、高潔な精神世界

深い感銘を受けたのは、ハマーショルドが仕事の悩みを一切書き残していないことです。そして本書には、彼が自己の内面とひたすら向き合っている様子が、詩のような美しい文で綴られています。読んでいると、彼の高潔な精神世界に触れ、清流に手足を浸しているような心地になります。「かくありき」と題された文には、次のような言葉が記されています。

「さらに遠く、未知の土地へと
私は駆りたてられてゆく。
小道は嶮しくなりまさり、
大気はいよいよ冷え、凛冽の度を加える
知られざるわが目的の地から
吹きよせる風に触れて
期待にうずく
心の絃はふるえる
なおも、私は問いかける。
かしこに、私は行きつくであろうか、
いのちが、しじまのうちに
きよらに澄んだ音色を発して
絶え入る、かの地に。」

このような清々しい言葉が、どのページを開いても溢れ出てきます。悩み事が頭から離れないという人は、試しにどこでも構いませんので、本書を適当に開いて2、3ページ読んでみてください。大学生のときから僕は、本書をずっと「座右の書」の1つにしています。皆さんにとっても、本書が心の伴侶になること請け合いです。

(構成=野澤正毅)
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