大波が見えてから変わっても逃げ遅れる

撮影=西田香織

それ以前の環境変化は、野球でいえば新しい戦術が開発されたとか、ルールが改定されたとか、その程度でした。ところが、90年代に始まったのはサッカーですから、野球チームのまま戦っても勝ち目はありません。

日本企業のなかにも、2つの大波を察知して警告を発した人はいたはずです。たとえば、グローバル市場で戦っていた人たちには予兆が見えたでしょう。しかし社内で「従来のビジネスモデルが通用しなくなる」と訴えても、実際に大波を見ないうちは誰も信じません。連続性、同質性が変革を妨げたのです。

30年前に必要だったのは、経営トップが「これからはサッカーだ」と即断し、自社をサッカーチームに切り替えることでした。ビジネスモデルを転換する。工場を手放してファブレス化する。過去の収益事業を売却する。そのうえで社外からサッカー選手を集めて、社内構造を一気に変革することでした。

連続性、同質性の組織では、そんな織田信長タイプの経営者はなかなか育ちません。よっぽど切れ者でも、異端児扱いされて常務どまりです。

この傾向は、現在もほとんど変化していません。先見性や実行力よりも、「あの人がトップなら会社全体の収まりがいい」という尺度でトップ人事が決まりがちです。しかも、穏健タイプの経営者ほど、もっと穏健な人を次期社長に指名します。負けつづけても、この連鎖は断ち切れないのです。

経営危機が連続性、同質性を断ち切る

もちろん、すべての企業が連続性、同質性に陥っているわけではありません。本物の経営危機に直面した企業が抜け出す過程で改革が進んだことがあります。

たとえば、坂根正弘さんが社長を務めた頃のコマツがそうです。2001年の社長就任時、同社の赤字は過去最大の800億円に達していました。それが坂根さんの大胆な構造改革によって、2年後に約330億円の営業黒字が出るまで回復します。

坂根さんは米「ハーバード・ビジネス・レビュー」誌のCEOランキングで、日本人でトップの17位に選出されたこともあります。最大の特徴は、人並み外れた割り切りのよさです。たとえば会計、調達、製造などを管理するERP(基幹システム)を導入する際、安価なパッケージを選び、まったく改変しないで社内の業務をERPに合わせました。社内システムにコストをかけても、建設機械を買ってくれるお客さんが増えるわけではないからです。

その一方で、競争領域では積極的に投資しました。建設機械にGPSを搭載した「KOMTRAX(コムトラックス)」です。建機の場所、稼働状況、燃料残量などがわかるという他社との差別化では、デジタル革命の波に乗ったのです。

坂根さんは平成を代表する名経営者のひとりですが、その坂根さんをトップに選んだ先代、先々代の経営陣も先見性に優れていたといえるでしょう。

コマツはかつて経営危機に陥ったことがあります。戦後に外資規制が緩和された最初の業界が建設機械で、1960年代に米キャタピラーの製品が入ってきて大打撃を受けました。このときに「政府は守ってくれない。自力で生き残っていかなくてはいけない」という企業風土ができたそうです。経営危機を乗り越え進化した企業は連続性、同質性にとらわれないという好例です。