家族連れが多く来場する商業施設ならではの配慮も

公立施設の展覧会では、映像が流れる場所で客が滞留し、展示全体を楽しめなくなることがままある。今回の展示は、パルコ側との協働で作っていったそうだが、コンテンツの面白さを損なうことなく、客の負担を軽減するキュレーションは、さすが百貨店のミュージアムと感じた。

作品のレイティング(年齢制限)とゾーニング(空間規制)も非常にしっかりしていた。レイティングは「15歳未満の年少者の観覧には親又は保護者の同伴が必要です」と明示されていた。ゾーニングは会場内で特に刺激の強い映像は、暗幕の中に入らなければ見られないようになっていた。家族連れが多く来場する商業施設ならではの適切な配慮だったと思う。

学芸員の資格をもつジャーナリストはそれほど多くはないだろう。その能力を応用した今回の展示は、学芸員という資格が決して無駄なものではないことにも気づかせてくれる。

「善悪」ではなく「違法か、合法か」という尺度で論じる

筆者はこれまで、さまざまなランクの教育機関で授業を行ってきた。その中で、もっとも大変だったのは、そもそも社会問題に無関心な層をどのように現実と向き合わせるかという点であった。

丸山ゴンザレス氏(右)と筆者。(写真提供=井出 明)

貧困や犯罪について説教めいた口調で論じても、学生は耳を傾けようとはしない。ところがゴンザレスのルポルタージュは若者を引きつけている。彼のコンテンツを導入として用いれば、本質的な問題の「入り口」を興味深く見せることができるだろう。教育者が日々悩んでいることについて、今回の展示は有益な示唆に富んでいる。

もう一点、今回の展示で心に響いたのは、「善悪で対象を論じない」という彼の姿勢であった。もちろん、銃密造も麻薬売買も悪いと言えば悪いわけなのだが、それを悪いと言ってみたところで厳然とした事実としてそれらは存在する。一方、彼は、「善悪」ではなく、「違法か、合法か」という尺度で論じている。

展覧会では、南アフリカの捨てられた鉱山での違法操業のリポートがあった。これは、失業者に仕事を与えることにはなるが、劣悪な環境下での搾取を伴うため、「いいか、悪いか」では評価しにくい。ただ、イリーガル(違法)であることは確かなので、彼はそれを前提に取材をすすめるという。