人は「損をする話」や「危険をあおる話」に敏感

――どうして不正確な情報がまことしやかに流れてしまうのでしょう?

【森戸】ひとつには、ワクチンの効果は目に見えないものからです。これまで、天然痘やポリオ、麻疹など、さまざまな感染症が流行して本当にたくさんの人が亡くなってきました。だからこそワクチンが開発され、多くの人が感染症から身を守ることができるようになったのです。ところが、ワクチンの効果によって悲惨な感染症が昔より減った結果、ワクチンの効果が忘れられ、副反応だけに目が向きやすくなったのでしょう。そして、反ワクチン運動などが起こって、再び感染症が流行しています。

【宮原】多くの人が<損をする話>や<危険をあおる話>に敏感に反応しやすいことも、理由のひとつだと思います。だからこそ、「ワクチンは効かない」「ワクチンは危険である」などと危険性をあおる不正確な本が売れます。売れるからこそ、一部の出版社が不正確な反ワクチン本を出し、さらにそういった本が売れることで、一般の子供を大切に思う保護者の方が根拠のない情報にあおられるという悪循環です。

職業選択の幅を狭めるリスクがある

――ワクチンを接種していないと、どんなリスクがありますか?

【森戸】最大のリスクは、子供自身が感染症に苦しむことです。多くの感染症は高熱が出ますし、本当に苦しいもの。しかも、ワクチンが開発されている感染症のほとんどには治療法がありません。治療法がないから、ワクチンが開発されたのです。いったん発症してしまったら、対症療法しかありません。さらには、後遺症をもたらしたり、亡くなったりしてしまうこともあります。そのリスクの高さは、本書を読んでいただくとわかりますが、予防接種の副反応のリスクとは比べものにならないほど高いのです。

【宮原】しかも、ワクチンを接種していない人が増えると犠牲になるのは、接種しなかった子供本人だけではありません。ワクチン接種前の赤ちゃん、ワクチンを接種しても免疫がつきにくい人や接種できない人、病気の方や高齢者も犠牲になります。

ですから、予防接種をしていないと、何らかの病気にかかったときやケガをしたときに、入院先の病院が限られることもあるんですよ。

――速やかに入院できないと困りますね。他にも困ることはあるでしょうか?

【宮原】学業に差し支えることがあります。例えば、2010年に秋田県大館市で麻疹が流行したとき、市の教育委員会はワクチン未接種の児童生徒を出席停止措置にして感染拡大を防ぎ、ワクチン接種を促しました(※2)。このほか、教育や医療にかかわる学校に入学できない、実習ができない可能性もあります。例えば、医学部に入学して医師になろうとしても、ワクチン未接種だと実習に入れないでしょう。つまり、将来的には職業の選択の幅を狭めるリスクもあります。

※2 http://idsc.nih.go.jp/iasr/31/360/dj3604.html