今や、節約したいものの筆頭に挙げられるファッションだが、ユニクロの服を買うことは単なるファッション消費ではない。なぜなら私たちは、ユニクロの服を買うことで、「ていねいなくらし」というライフスタイルを手に入れているからだ。それは、非難されがちな浪費では決してなく、むしろ推奨されるべき正しい消費である。
「ていねいなくらし」が浸透した背景
だが、ユニクロを選ぶことが「正解」になるためには、「ていねいなくらし」そのものが人々に支持されなければならない。着ることよりも、食べることや暮らすことへの関心が高まっていなければならない。「ユニクロがよくない?」と言われるようになった二つ目の理由は、「くらし」の時代が到来したからであった。みんながおしゃれよりも、「くらし」が好きだと言い始めたからである。
1980年代はもちろん、90年代、2000年代に入っても、人々はおしゃれに精を出し、服を買い続けてきた。風向きが変わったのは、ファストファッションが浸透してからである。ファッションを民主化したと言われるファストファッションだが、いつでも、どこでも、誰でも買える流行服の蔓延は、同時に服への関心も低下させることになった。もう、おしゃれで差異化する時代ではない。誰もがそこそこおしゃれになったのだから。時間もお金もエネルギーもそれほど注がなくてもよいのではないか。
さらに2011年に起こった震災が追い打ちをかけた。ファッションよりも、もっと大切なものがある。日々の「くらし」をていねいに生きることこそ重要なのではないか。こうして、ファッションへのこだわりが、食や雑貨といったライフスタイルへ向けられるようになり、おしゃれをして街へ出かけるよりも、家の中での生活=「くらし」が注目されるようになった。
断捨離されたシンプルな部屋で時間をかけて朝ごはんを食べる「ていねいなくらし」こそ、最もファッショナブルだと思われるようになったのだ。
空前の“健康ブーム”がぴったりはまった
そのようななかで、80年代や90年代には考えられなかった服を買わないという選択も推奨されるようになった。なるべく少ない服を着回すことが求められ、「毎日同じ服を着るのがおしゃれな時代」とまで言われるようになった。そんな時代だからこそ、ユニクロの「ライフウェア」がいっそう支持される。
ベーシックで、シンプルで、組み合わせやすい服装の部品。仕事にも「ユニクロ通勤」すればいいし、毎日のコーディネートもユニクロを中心に着回せばいい。よく考えてみれば、みんな、もともとおしゃれがそんなに好きではなかったのかもしれない。でも、今までは毎日とっかえひっかえ着替えなければならないと思わされていたのだ。おしゃれをしなければならないと思わされていたのである。