サラさんはこう答えてくれた。
「大きなインパクトを与えているのは、SNSでシェアされている家畜に関するビデオや、ネットフリックスなどで見られるドキュメンタリー映画だと思います。私たちが口にする肉がどれほどひどい状況で育てられているかが克明に描かれています。
『ファクトリーファーム』と呼ばれる窓もない施設で牛が育てられているなんて、それまで全く知らなかった。これまでアメリカ人が全く知らされていなかった真実が、初めて白日の下にさらされたのです」
サラさんの言うドキュメンタリーとは、「フード・インク」(2008)、「カウスピラシー」(2014、レオナルド・ディカプリオがプロデューサーとして参加)「フォークス・オーバー・ナイブス」(2011)といった映画のことである。
動物が好きなのに殺して食べるのは偽善だ
例えば「フード・インク」では、ファクトリー・ファームで自分の糞尿に足首まで浸かって育てられる肉牛、日光が全く当たらない屋内で成長を早めるために抗生物質などを与えられ、骨の成長が追い付かないために歩けなくなった鶏など、これまで見たことがないような衝撃的な映像が次々に出てくる。安く豊富に供給される肉の裏側に隠された真実だ。
こうした映像のパワーが、もともと動物好きなアメリカの若者の心を直撃した。これまで何も考えずに食べていた肉と、劣悪な環境で育ち屠殺(とさつ)される肉牛とが初めてつながったのだ。情報は猛スピードでネット上を駆け巡った。
「あれを見てしまってからもう肉は食べられないと思うようになりました」と話すのは、ニューヨーク在住、ヴィーガンになって1年という23歳の女性。
肉や魚を食べるということは、生き物を殺すことになる。そこまでして肉を食べる必要があるのだろうか? という疑問が、アメリカの若者の間で頭をもたげ始めたのだ。
ベジタリアン歴8年の20歳の女性は、「自分は動物が大好きなのに、生きているものを殺して食べるのは偽善だと思ったのです」と話し、またヴィーガン歴7年という24歳の女性は「子供の頃クジラが大好きで、よくテレビでクジラの生態などのドキュメンタリー番組を見ていました。ところがそのクジラを食べる文化があることを知ってショックを受けました。その時に、私たちも牛や豚などの動物に対して同じことをしているのだと感じたんです」
こうした動物への思いとともに、人々が関心を払い始めたのが、肉食生活が人の健康に与えるリスクである。