「治癒した患者からも感染する」という誤解
「01年に小泉政権が元患者に関する賠償判決の控訴を断念し、補償に乗り出して以降、国や自治体はハンセン病への理解を深めるための啓発や学習に力を入れてきた」
「だが、差別や偏見がなくなったとは言い難い。03年に熊本県内のホテルが元患者の宿泊を拒否。14年には、福岡県の小学校でハンセン病について誤った教育が行われ、児童が『友達がかかったら私は離れておきます』と作文に記していたことがわかった」
「今回の裁判の原告も、16年に提訴に踏み切るまで行動を起こせず、大半が匿名だった。その意味を一人ひとりが考えたい」
ハンセン病をはじめとする感染症には差別や偏見が付きまとう。感染して病に苦しみたくない、命を落としたくないという気持ちはよく分かる。感染症のなかにはアフリカで流行を繰り返す、最大致死率90%というエボラ出血熱のようなキラー感染症もある。
問題はハンセン病のように感染力が極めて弱いにもかかわらず、一部の患者の顔かたちが変形する後遺症だけを見て、恐れるところにある。ハンセン病は抗菌剤で治癒できるようになった。治癒した元患者から感染することはない。こうした正しい知識を啓発することが重要だ。これはハンセン病に限らず、すべての感染症に当てはまる。
安倍首相の「政治判断」の思惑まで書いてほしい
次に7月10日付の読売新聞の社説を見てみよう。
「(熊本地裁判決は)国家賠償に関する時効の起算点について、独自の解釈を示し、原告の救済につなげた」
「このため、政府内には『控訴して上級審の判断を仰ぐべきだ』との意見が強かった。同種の訴訟で1、2審で国が勝訴し、最高裁で係争中という事情もあった」
「法律上の観点などを踏まえれば、政府が地裁判決を受け入れるハードルは高かった。それを乗り越えるには、首相の政治判断が必要だったということだろう」
安倍首相の政治判断を評価しているが、新聞としてはその思惑にまで踏み込むべきだ。そこを書かないから「安倍政権とベッタリだ」などと批判されるのだと思う。ひとりの読者としては、その点を読売新聞に期待している。