蒸し暑いと「自然な睡眠の流れ」が妨げられる

蒸し暑さで寝苦しいときの睡眠の特徴を、過去の研究からまとめてみる。意外なことに、寝つくまでの時間に大きな影響はない。しかし、入眠した後に中途覚醒が増えてしまい、「軽睡眠→深睡眠」という自然な睡眠の流れが妨げられてしまう。東北福祉大学の水野康先生の研究では、室温35度・湿度75%の暑熱環境において睡眠を計測したところ、睡眠前半にかけて中途覚醒が数多く見られ、深睡眠はほとんど見られなかった。逆に睡眠後半では、前半で眠りが妨げられたため中途覚醒が少なく、深睡眠が少量ながら見られたという(※2)

(※2)Okamoto K et al. : Effects of truss mattress upon sleep and bed climate. Appl Human Sci 1998 ;17:233-237.

この結果を見ると、深夜から明け方にかけて眠れるのではと思われるかもしれないが、身体が朝起きる準備を始める睡眠後半は、深睡眠は少なくなるのが自然な睡眠経過である。つまり、不自然な睡眠になってしまうということだ。ちなみに、暑熱環境ではレム睡眠も減少しており、健康で自然な睡眠とはほど遠くなることがわかる。

「蒸し暑さに慣れてくれば大丈夫だ」という頑迷な根性論者にも反駁しておこう。別研究だが、室温35度・湿度18%という環境で連続5日間にわたって睡眠計測を行ったところ、発汗量が減るなど体温調節はわずかに慣れる兆候は見られたが、中途覚醒の増加やレム睡眠の減少など睡眠の悪化は、5日目でも回復しなかった(※3)。この条件より多湿な環境で実験を行ったならば、熱中症になっていた可能性が高い。

(※3)Libert JP et al. : Effect of continuous heat exposure on sleep stages in humans. Sleep 1988 ;11:195-209.

蒸し暑い環境では、皮膚拡張による熱放散では追いつかず、かつ多湿が発汗による体温低下をも妨げてしまう。「暑い」だけではなく「蒸す」も、睡眠にとっては手強い邪魔者なのだ。

睡眠から3~4時間はエアコンを使用したほうがいい

環境省はクールビズにおいて、冷房時の室温=28度を推奨したが、これについて担当官僚が、「科学的知見でなく、何となく決めた」などと発言しニュースになった。オフィスで28℃はやや高いと思うが、寝室の温度設定の上限は28℃程度だとわたしは考える。

エアコン使用の注意点は、設定温度・時間、エアコンからの気流に分けられる。低すぎる設定温度は、後述する気流とも関係するが、体温を過度に奪われる原因となる。寝苦しさのために途中から中途半端に使うよりは、就寝前よりオンにして寝やすくしておくなど、予防的に使用したい。

夜中も30度に迫る熱帯夜が続く場合には、一晩中、エアコンを使うことが望ましい。ただし、地域(北日本、高地など涼しい地域)や居住環境(風通しの良い家など)によっては、タイマーで途中で切れる設定の方がベターな場合もある。それでも睡眠前半の徐波睡眠は確保したいので、睡眠前半の約3~4時間はエアコンを使用したほうがよい。