私たちが決断を急いでしまうわけ

ところで、私たちはなぜ、「早い段階」で決断を下してしまいがちなのだろう? この忍耐力のなさはどこからくるのだろう?

それは、いろいろなサンプルを試すには「労力」がいるからだ。

5人目で採用を決めてしまえば面接を終えられるのに、どうして100人も面接しなくてはならないのだろう? ひとつの仕事を選ぶのに、どうして10社で採用面接を受けなければならないのだろう?

いろいろなことを試そうと思えば、手間がかかる。その手間を省きたいのだ。

おまけに、新しいことに挑戦するのは面倒だ。若いときに少しでもかかわったことのある分野に、そのままとどまっていたほうがラクでいい。もちろん、それでも無難にキャリアを積み重ねることはできるだろう。

だが、もう少し新しいことに意欲的になっていたら、ほかの分野でもキャリアを築けた可能性は大いにあっただろう。ひょっとしたらいまよりもっと成功して、もっと楽しく仕事ができていたかもしれないのだ。

早計に決断してしまいがちな理由は、もうひとつある。決断を保留にしたままいろいろなことを試すより、ひとつのテーマを終えてから次のテーマに取りかかったほうが、頭の中の整理ができて心地がいいからだ。

あまり重要でない決断をするときにはそれでもいいが、その方法では最適な選択が難しくなるので、重要な決断の際にはあまりいい結果にはつながらない。

初めての恋人に振られたベビーシッターへの言葉

何カ月か前、我が家のベビーシッター(20歳)が、打ちひしがれた様子で家のドアをノックしたことがあった。恋人に振られたのだ。

彼女にとっては初めての恋人だった。彼女の目には涙が浮かんでいた。私たちは客観的に彼女の状況を分析し、なんとか彼女を慰めようとした。

「まだ若いし時間はたっぷりあるんだから、10人でも20人でも、いろいろな男性と付き合ってみればいい! そうすれば、世の中にはどんなタイプの男がいるかがわかるから。長年一緒に過ごすにはどんな相手がいいか、自分にはどんな人が合うかがわかるようになるのはそれからだよ」

だが、彼女は力のない表情にほんのわずかな笑みを浮かべただけで、少なくとも私たちの話を聞いているあいだは、納得しているようにはとても見えなかった。