SNSの普及が、専門店やビアフェスを後押し

スタンプラリーのように全国のビールを網羅したり、飲み比べて論評を加えたりするために、気に入った店に足しげく通う客も現れたが、SNSの登場はこうした動きを加速させることになった。店側は日々入れ替わる商品のラインアップをツイッターやフェイスブックで発信し、客はその情報を頼りに各地の専門店を訪問する。

自分が飲んだビールをSNSにアップするとビール愛好家のあいだで拡散し、そのビールを求めてまた客が訪れるという状況が発生。全国のブルワリーが出展するイベント「ビアフェス」が各地で頻繁に開催されるようになったことも、こうした流れを加速させることになった。

そんななかで発生した東日本大震災は、クラフトビールブームに多少なりとも影響をおよぼしたのではないか。震災は多くの人にとって「人とのつながり」を再考するきっかけになり、「大量消費から手づくり」へというクラフトビールと親和性の高い消費傾向が生まれたからだ。

飲食店や消費者による被災地域にあるブルワリーの支援にとどまらず、店と客、あるいは客同士が集い、試飲会やビールづくり体験会といった復興支援を目的としたイベントが開催されるなど、クラフトビールを通じた交流が見られはじめたのもこの時期だった。

個性を打ち出し切れず、閉店する店も増えている

2013年くらいまでを日本におけるクラフトビール市場の黎明期とすると、その後現在に至るまでは成熟期といっていいかもしれない。その移行に少なくない役割を果たしたのが、「クラフトビアマーケット」だ。

2011年に東京・虎ノ門で創業した専門店で、当初からビールをサイズごとの均一価格で提供。大手メーカーのビールに比べて高額なクラフトビールをより気軽に楽しめるような価格に設定していたのだが、その後多店化を進め、現在系列店は10店以上を数える。

黎明期は注目を集めていたとはいえ、実際に専門店に足を運ぶのは熱心なビール愛好家が中心だった。しかしながら、「クラフトビアマーケット」に代表される親しみやすい専門店が増えたことで、居酒屋やワイン酒場と並んでクラフトビール専門店が飲み会における店選びの選択肢として挙がり、ライトユーザーも専門店に訪れるようになった。さらにコンビニやスーパーでも缶やボトルのクラフトビールを気軽に入手できるようになり、クラフトビールは消費者にとってより身近な存在になったといえる。

その一方ではやりに乗ってオープンした専門店が閉店するケースも増えている。そうした店はブームに乗ったはいいものの、個性を打ち出し切れず、淘汰されていったとみていいだろう。これも市場が成熟してきた証しにほかならない。