女性や若者が「おしゃれ」にビールを楽しめる空間

フードも唐揚げやフィッシュ&チップス、フライドポテトといったビールに合わせた定番つまみにとどまらず、和食、イタリアン、創作料理などを自由に提供し、それぞれの店の個性を際立たせた。

店のつくりもそれまでのビール業態では見られないスタイルだった。ブルワリーから仕入れたビールの樽は、客席から見える場所に設置した冷蔵庫で保管し、そこに取りつけたタップ(注ぎ口)からビールを提供。ずらりと並んだタップは見た目にスタイリッシュであり、これがクラフトビール専門店の「顔」となった。内装はカフェのようなくつろげる雰囲気にしたり、洗練された空間づくりをほどこしたりすることで、女性や若者がビールをおしゃれに楽しめるように工夫した。

こうしてクラフトビール専門店は、軽く扱われがちであったビールという商材に新しい価値を見出したといっていいだろう。

2010年頃からグッと質が上がった理由

それにしても、なぜこの時期にクラフトビールが注目され、今日にいたるまで専門店の出店ラッシュが続いているのか。

第一に挙げられるのが、2010年頃を境にして国産クラフトビールの質が全体的に向上したことだ。前述のとおり、「地ビール」時代はご当地の土産物といった側面が強く、品質は二の次であった。しかしながら、一部の意識の高い醸造家たちは、この間海外で修業するなどして地道に研鑽を積んできた。こうした動きと比較的若い飲食店店主のチャレンジングなスピリッツが共鳴し、新しい飲食店のかたちとしてクラフトビール専門店が生まれたのだ。

それに呼応したのが、飲み手である。それまでビールといえば、大手メーカーのラガービールが一般的だったが、ペールエール、ヴァイツェン、ポーター、バーレーワイン……といったさまざまなタイプのビールが気軽に飲めるようになり、自分の好みのタイプやブルワリーを探す楽しみを覚えた。なかでもホップをしっかり効かせたIPA(インディアペールエール)の人気は、群を抜いていた。