依存症は「進行性で自然治癒がない」ので一刻も早く治療を

少なくとも前回の事件のときにアルコール依存症を自覚して、断酒していれば、今回の事件は起こらなかったはずだ。

たった2項目当てはまっただけで依存症の診断基準に当てはめるのは、いかがなものか。と感じる人もいるだろう。しかし、ギャンブル依存症治療の第一人者である帚木蓬生医師によると、「(この病気は)進行性で自然治癒がない」。

要するに、激しい離脱(禁断)症状が出て、昼間から連続飲酒をしてしまい、会社をクビになったり、社会生活が維持できなくなったりしては遅いから、その前に治療的介入を行おうという考え方に基づいた診断基準なのである。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/NicolasMcComber)

糖尿病であれ、高血圧であれ、高脂血症であれ、数値上の異常はあっても、よほどの重症でない限り、自覚症状はないし、動脈瘤などがない限り、いきなり脳の血管が破れることはない。しかし、それを長年放置しておくと、将来、心筋梗塞や脳卒中のリスクが増えるということ、つまり、それらの予防のために血圧や血糖値をコントロールする。

それと同じ発想で、重篤な問題が起こる前に治療を受けるなり、自制の習慣をつけるために診断基準を厳しいものにしているのだ。

大王製紙元会長(東大法卒)はアルコール&ギャンブル依存症

このアルコール依存によって、本来賢い人がバカになってしまうということで思い出されるのは、大王製紙元会長の井川意高(もとたか)氏である。

筑波大付属駒場高校から東大法学部を卒業し、父親が経営する大王製紙に入社、慢性的に赤字だった家庭紙事業(ティシューペーパーなど)を黒字転換させるだけでなく、同社のブランド「エリエール」をトップシェアに押し上げる名経営者になった。

非の打ちどころがない「頭のいい人」と言える。しかし、カジノにはまって100億円以上の金を失い、子会社7社から計86億円の金を不正に借りたと訴えられ、最終的には懲役4年の実刑判決を受けている。

本人が収監される前に書いた『熔ける 大王製紙前会長 井川意高の懺悔録』(双葉社)の中で、自身が精神科医から「アルコール依存症」と「ギャンブル依存症」の診断を受けたことが記されている。

同書の中で、本人も、自分はアルコール依存症の診断基準の多くが当てはまり、いくつかの項目は「まさにドンピシャである」と明言している。

彼も依存症のためにまともな判断力が働かなくなっただけでなく、社会的に許されないことに手を染め「バカになってしまった」と言える。