四国遍路の“代参サービス”もある

納経帳や納経軸を盗んで売るのは犯罪であり論外だ。だが、こうした犯罪が絶えないのは、他人が集めた御朱印を欲しがる人がいるということでもある。特に、四国遍路の納経帳は、葬儀の時にお棺に一緒に入れてもらうと極楽に行けると信じる人が存在する。宗教的な力を期待しているからこそ、他人の納経帳の売買が成立するのだ。

また、ネット上には、本人に代わって四国遍路をまわる代参サービスがいくつもある。代参費用は決して安くはない。御朱印代に加え、人件費・宿泊費・交通費などで20万~30万円になる。さらにはオプションで、フェリー代など数万円を加算すれば、高野山まで代参してくれるところもあるようだ。

代参自体は古くからある。病気や家庭の事情などで長旅に出られない人の代わりに寺社をまわるのだ。ただ、かつては家族や親族、地域の親しい人に代参してもらっていたのが、近年ではネットを介して契約が結ばれる。そうしたサービスが、ネットを検索すればいくつもヒットし、カタログで商品を選ぶようにして代参を購入できるのである。

単にかつては大切にされていたものが商品化されているわけではない。御朱印や納経帳に高額を支払う人々は、それを頒布する寺社に価値や魅力を見いだしているのである。

一番の問題は転売で稼ぐ人たちだ

御朱印のネット転売は、伝統宗教を取り巻く大きな変化の一端でしかない。ちなみに、キリスト教では、日本から遠いヨーロッパの聖地にちなんだメダルや十字架が通販で売られるのは珍しくない。癒やしの効果があると信じる人もいるフランスの聖母出現地ルルドの湧き水なども、「直輸入」として販売されたりしている。

本来は参拝の証しである御朱印を、寺社がネットで頒布するのは難しいだろう。だが、「出世の階段」で有名な愛宕神社のように、遠方で来られない人のために、ウェブサイトに「ヴァーチャル参拝」を用意しているところもある。

むしろ、一番の問題は御朱印を転売する人だ。彼らは寺社と購入者の間に入って不当な利益を上げている。これからも御朱印熱を利用した転売が横行するのであれば、これを取り締まるためにも、寺社側がネットを通して需要に直接応えても良いのかもしれない。

岡本 亮輔(おかもと・りょうすけ)
北海道大学大学院 准教授
1979年、東京生まれ。筑波大学大学院修了。博士(文学)。専攻は宗教学と観光社会学。著書に『聖地と祈りの宗教社会学』(春風社)、『聖地巡礼―世界遺産からアニメの舞台まで』(中公新書)、『江戸東京の聖地を歩く』(ちくま新書)、『宗教と社会のフロンティア』(共編著、勁草書房)、『聖地巡礼ツーリズム』(共編著、弘文堂)、『東アジア観光学』(共編著、亜紀書房)など。
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