なぜ、前足部を4ミリ、ヒールを1ミリ厚くしたのか

筆者は今回、ロンドンで新シューズの発表会に出席した。

同シューズの開発・マーケティングを担当しているブレット・ホルツ氏(ナイキ ランニング フットウェア ヴァイス・プレジデント)に直接話を聞く機会を得たが、細かい部分までしっかり計算されていることに驚かされた。

ナイキ ランニング フットウェア ヴァイス・プレジデントのブレット・ホルツ氏(写真=ナイキ提供)

最大の注目ポイントは、シューズの「エンジン」ともいうべきミッドソールがさらに厚くなったことだろう。ミッドソールはスプーン状の「カーボンファイバープレート」を、航空宇宙産業で用いられる軽くて柔らかい素材で作られた「ズームXフォーム」で挟む3層構造。ランナーが足で踏み込み、カーボンファイバープレートを屈曲させることで、元の形状へ戻ろうとするときに推進力が生まれる。

ズームXフォームも最大85%という高いエネルギーリターンを誇るが、新シューズではフロント部分を4ミリ、ヒール部分を1ミリ厚くした。ミッドソール全体でズームXフォームのボリュームを15%増量したという。

「ヒール(かかと)よりフォアフット部分(前足部)にフォームを増しました。一流のアスリートの着地は、大半がフォアフットかミッドフット。ヒールストライカーでも、地面を蹴るのは前足部です。フォアフット部分を厚くすることで、エネルギーリターンもアップしました」(ホルツ氏、以下同)

(写真=ナイキ提供)

シューズの全パーツに先端テクノロジーを搭載している

そしてオフセット(ヒール部分とフォアフット部分の厚さの差)は11ミリから8ミリに。従来モデルと比べて、感覚的にはヒール部分が3mm下がったことになる。

「オフセットを8ミリに抑えたことで、安定感が高まり、着地後、地面を素早く蹴り出せるようになりました。安定性を高めるために、ミッドフットあたりのサイド部分を少し広げて、逆にヒール部分は少し狭くしています」

なお、カーボンファイバープレートを挟む2層のズームXフォームは基本、熱で溶かして接着している。接着剤を極力使わないことで、余計な厚みが出ず、機能性を妨げない。環境にも配慮しているのだ。

フォームが15%増量したことでソール部分は重くなったが、アッパー部分を軽量化。シューズ全体の重さは変わらない。それだけでなく、新素材(ヴェイパーウィーブ)を採用したことで、通気性が格段に良くなったという。

「今回初めて使われたヴェイパーウィーブは、ナイロンとTPUプラスチック(熱可塑性ウレタン)で特別に作られたものです。水分の吸収量が10%以下なので、汗や雨などの水分吸収を抑えることができます。またアッパーはプラスチックTPUで網をかけることによって、3D形状を作り、足をホールディングします」