人は空気を吸うようにウソをついてしまう。そこには悪意があるわけではない。かしこまった状況が、「よそゆきの顔」をつくってしまうのだ。デザインディレクターの石川俊祐氏は「市場調査のインタビューは、『会社の会議室』より『自宅のリビング』でやったほうがいい。リラックスできる場所なら、自然と本音が出てくる」という――。

※本稿は、『HELLO,DESIGN 日本人とデザイン』(幻冬舎)の一部を再編集したものです。

※画像はイメージです(画像=iStock.com/NaokiKim)

一問一答ではなく、「対話」で深層心理を探る

デザイン思考の「リサーチ」において、観察と並んで大切なのが「インタビュー」です。対象となる人々を傍で「観る」だけでなく、正面から向き合って話を「聞く」。実際のユーザーやターゲットに問いを投げかけ、その答えから「潜在ニーズ」を導き出すヒントを得る。それが、インタビューの役割です。

話を聞く中ですぐに得られるのは「顕在ニーズ」。常日頃から「こうだったらいいな」と感じていることですから、みなさん前のめりで教えてくれます。

しかし、これはちょっとインタビューすれば誰でも得られる情報。話を聞くスキルもいりませんから、必然的にライバルが多くなる。似た商品やサービスが増える。スピード勝負になる。価格競争に陥りやすくなってしまいます。

そこで本物のデザイン思考家がインタビューで探っていくのは、人々の潜在ニーズです。本人も気づいていないような欲求を見つけるために話を聞いていく……と言うとシンプルですが、そう簡単ではありません。

まず、一問一答式のアンケートのようなやりとりではなく、「一答」もらうごとにていねいに掘り下げていく「対話型」のインタビューでなくてはなりません。なぜそう思っているか? いつからそう感じているか? たとえばこういうシチュエーションだったらどう思うか? アンテナを研ぎ澄まし、どこかにあるはずのヒントをその場で探っていきます。

インタビューでは“よそゆきの顔”になる

その中で気をつけなければならないのが、インタビュー中の「ウソ」です。

オフィスに来てもらったりカフェで話を聞かせてもらったりすると、その時点でインタビュイーは「よそゆき」の顔になります。緊張するし、いいことや期待されていることを答えようとする。よくも悪くも優等生的で、ある意味「誘導尋問に引っかかってくれる」。どこにいても自分の意見をはっきり持ち、ブレずに述べることができる人などほとんどいないことを忘れてはいけません。

ある食品ブランドは、それまでのターゲットとは別に、ファミリー向けにもサービスを展開したいと考えていました。そこで小さい子どもを持つお母さんにグループインタビューをしてみると、「健康にいいオーガニックな食品を選んでいる」「子どもにはできるだけ手作りの料理を食べさせている」と答えた層のボリュームがもっとも大きかった。……これだけ見ると、「イケる」と思いますよね。

ところが、このお母さんたちの「お宅訪問」をして、ちょっと冷蔵庫を見せてもらうと……冷凍食品がわんさか出てきた! 電子レンジでチンするだけの総菜や、瓶詰めされた離乳食など、リアルな食生活がそこにはありました。