だましたくなくてもウソをつく理由

さて、この家庭に、オーガニック食材を一から調理するようなニーズがあるでしょうか?

答えは、「ノー」です。

手を抜きたいわけじゃない。子どもの健康が気にならないわけじゃない。なるべく農薬が少なくて栄養豊富な食品を、自分の手で調理したい。

でも、お母さんは圧倒的に忙しいんです。「共働き夫婦のライフスタイルたるもの」「母親たるもの」という理想に基づいたすばらしい食材を送られてきても、実際は活用できません。

もし、グループインタビューを素直に信じたら、「子育て世代向けオーガニック野菜の定期配達」を企画することになるでしょう。

しかし、はじめは理想から申し込んでくれたお母さんたちも、冷蔵庫の中で腐りゆく野菜を見て後悔し、1カ月後には解約してしまう。……遠くない将来、サービス自体をストップさせることになるはずです。

もちろん、彼女たちは「だましてやろう」なんて思っているわけではありません。ただ、「自分をどう見せたいか」「どんな自分でいたいか」という気持ちで味つけされた回答になってしまっただけ。

願望と本音は、どちらも知る価値がある

そうさせないためには、どうすればいいか。できるだけ「リアル」に近い状況で、取り繕わなくていいような状況をつくるしかありません。会社の会議室に招いてインタビューするのではなく、一軒ずつ「お宅訪問」する。リラックスできる場所で話を聞く。できるだけ

「よそゆき」じゃないその人と対話するしかないんですね。

とはいえ、「ウソ」のリサーチがまったく役に立たないかというと、そうではありません。いわば、ユーザーの「願望」があらわれているわけですから。

この場合、インタビューでの回答(願望=家族の健康を気にかけたい)と冷蔵庫の実状(忙しい)、そしてオーガニックブランドのやりたいこと(ファミリー層に健康的な食事を広めたい)を掛け合わせて考えると、「実現可能なオーガニック」に鉱脈がありそうだと気づけます。「15分でできるオーガニック料理のキット」なんてサービスもいいかもしれませんね。

「観察」と同じくリアルな現場を用意し、インタビューで本心を引き出すことがいちばんの理想です。でも、もし本心を語ってもらえなかったと感じても、それを情報として次のプロセス(「問い」を設定する)で活かすこともできる。宝の山であることに変わりはないのです。