術後の経過は良好だった。1カ月以上かけてリハビリを行った。幸い、見守りと軽介助で歩くことができるようになった。彼女は、入院から2カ月程度で、老人ホームへ戻ることになった。担当の看護師が、引き継ぎの書類に“歩行時の見守りと軽介助が必要なこと”を記載した。
「うちで看ることはできません」
彼女が入居した老人ホームは、24時間対応をうたっていた。日中は看護師、夜間は介護士が常駐している。しかし、24時間の完全な見守りは難しい。
退院した翌朝、彼女は再び転倒してしまった。巡回をしていたヘルパーが、トイレの前で倒れている本人を発見した。結局、骨折の疑いで救急搬送され、再入院となった。検査により、今度は別の部位に骨折が見つかった。
手術の適応ではなかったため、保存療法を受けることになった。装具で患部を固定し、可能な範囲でリハビリを行った。ベッド上で安静を保たなければならなかったが、彼女はその必要性を認識できていなかった。痛みは知覚できるが、認知機能の低下により、骨折していることが分からず、自分の身を守れない。前回の入院と同様、安全確保のための拘束をする対応となった。
保存療法の経過から、完治して老人ホームに戻ることは難しかった。有料老人ホームの経営者と管理者は、「拘束が必要な認知症患者は看ることができない。一応、倫理委員会で検討するが、難しいだろう」と話した。
多額の入居金を支払って、この待遇だ。ひとりで働いて貯蓄し、老後の頼りと入居した場所から、このような形で追い出されるとは、彼女は想像もしなかっただろう。最期まで過ごすという契約であったが、違約金は発生しなかった。入居金を含め、何も返金されていない。
「事実上身寄りなし」で施設探しも困難に
有料老人ホームの経営者にとっては、ビジネスモデル上、死亡を含めて早期に退去させるほど儲かる。月額の費用が同じならば、入居者が入れ替わる度に発生する入居金を、多く発生させた方がよいというわけだ。
病院側は、本人の居場所を一から探した。不幸中の幸い、リハビリ病院への転院が可能な状況だった。転院して3カ月はしのげる。急性期の病院ができることはここまでだ。