「金銭報酬」あっての「感情報酬」

つまり、感情報酬がどんどん大事になってきているのだ。感情報酬を適切に提供し、従業員の意欲を高め、成長エンジンとしている企業を、私たちは「モチベーションカンパニー」と呼んでいる。モチベーションカンパニーでは、金銭報酬や地位報酬に加えて、働く個人一人ひとりに感情報酬を提供する。それによって、優秀な個人を引き寄せる。

小笹芳央『モチベーション・ドリブン』(KADOKAWA)

勘違いする人はいないだろうが、金銭報酬と感情報酬の関係でいえば、金銭報酬が大前提となる。金銭報酬は生きていくうえでの食い扶持だから、なくては生きていけないものだ。金銭報酬があっての感情報酬である。

ただ、金銭報酬がある程度まで得られたら、金銭報酬が5%増えるよりも、感情報酬が10%増えるほうが嬉しいと感じる。それが今の働き手だ。生き死にのレベルでギリギリ生活している人はよりお金がほしいと思うが、たとえば、年収が500万円を超えたら、感情報酬のほうを求めるようになる。

さらに年収が1000万円を超えたら、それは自分の自尊心を保つ記号となり、1500万円になればさらに記号化する。自分の尊厳や承認されている感覚、誰かに貢献している実感、そういったものを強く求めるようになるのだ。

組織を束ねる「十戒」で統合効果が倍増

ではどうすればうまくチームや組織を束ねられるのか。ちょっとしたコツを紹介しよう。どんな組織も、DNAやミッション、ビジョンを言語化したり、行動指針をつくったりすることはすでにやっているところが多いはずだ。それらはとても大事だが、これに“あるもの”を加えるといいのである。

加えるべきものとは、「何々してはいけない」という自社独自の戒めだ。これで「統合」の効果が倍増する。DNAやミッション、ビジョンが「こうありたい」というポジティブ側からの統合施策だとすれば、戒めや戒律、十戒などは「これはダメ」というネガティブ側からの統合施策だ。この両方を併せて行うことで、より深く統合が図れる。

若手が多い企業で特に効果があるため、そうした企業の経営者には、十戒をつくるようによくアドバイスする。リンクアンドモチベーションでは、従業員向けの「LM十戒」と経営幹部向けの「経営十戒」があり、併せて従業員に伝えている。

「LM十戒」には、たとえば、「見て見ぬ振りをしてはならない」「苦言に耳をふさいではならない」「陰口をいってはならない」などの戒めが10個書いてある。