なぜ「おしゃクソ」はそんなにウケたのか
言われた直後のリアクションを見ると、品川は明らかに自分が言われたことの重さに気付いていない。「おしゃべりクソ野郎で売れないでしょ」などとのんきなことを言っている。この時点では、品川は自分が他人をイジる側の人間だと思っていたため、イジられることを不愉快に思っていた。だから、有吉の言葉をまともに受け止めようとしていなかったのだ。
だが、このときの品川の理解は間違っていた。有吉は「いろいろな人にあだ名を付けていく中で、品川だけに特別にひどいあだ名を付ける」というボケを放ったわけではなかった。実は、芸人たちも、スタジオにいた観客も、視聴者も、誰もがみんな、潜在的に品川のことを「なんとなく鼻につく」と感じていた。その潜在的な気分を有吉が「おしゃべりクソ野郎」という言葉で端的に表現してくれたことに感動したのだ。
「おしゃべりクソ野郎」は決して言いすぎではない。当時の品川がかもし出していたいけすかない雰囲気をそのまま正しく言い当てていた。だから、みんなが笑った。このとき、有吉は新しい笑いの扉に手をかけていた。
あだ名芸で見せた絶妙なバランス感覚
「おしゃべりクソ野郎」の衝撃は業界内でまたたく間に広まった。有吉はあらゆるバラエティ番組に呼ばれるようになり、そこで出演者たちにあだ名を付けることを求められた。「あだ名芸」には絶妙なバランス感覚が必要だ。少しでも「違う」と思われてしまったら笑いにならないし、本人から反感を買ってしまうかもしれない。
そこを有吉は巧みに乗り切った。あだ名を付ければ確実に笑いを取ってみせた。ベッキーに対する「元気の押し売り」、和田アキ子に対する「リズム&暴力」など、のちのちまで語り継がれる名作もたくさんあった。
そうやって結果を出し続けて、有吉はこの怒涛の「あだ名バブル期」を乗り切った。主要なバラエティ番組を一周してからも、その勢いは衰えなかった。
ここから有吉の快進撃が始まった。ひな壇で確実に笑いを取る「点取り屋」として重宝され、各番組に引っ張りだこになった。2011年には「テレビ番組出演本数ランキング」で1位を獲得。現代を代表するテレビタレントの1人となった。