4年あれば、人間は変われる。帝京大学駅伝競走部の中野孝行監督は、目立った実績のない高校生を、大学4年間で「箱根駅伝」の上位走者に育ててきた。ほかの大学が「スター高校生」を招くのとは対照的だ。なぜそんなことが可能なのか。中野監督の「魔法」の原点とは――。
※本稿は、中野孝行『自分流 駅伝・帝京大の育成力』(ベースボール・マガジン社)刊行記念トークイベントの内容を再編集したものです。
「私は選手たちを信じている」
帝京大学駅伝競走部の監督に就任したのは、2005年11月でした。翌秋、初めて箱根駅伝予選会の指揮をとった日のことは、今でもはっきりと覚えています。9位までが本大会に出場できるところ、12位で落選。喧騒から逃れるように大学に戻ると、ちょうど学園祭期間で、キャンパス内はにぎわっていました。
研究室のある建物の扉を開いたときです。歌手の絢香さんの「I believe」という曲が、私の耳に染み入るように入ってきました。あとで知ったのですが、学園祭で絢香さんのライブがあり、そのリハーサルをやっていたそうです。美しい歌声に思わず聴き入ってしまいましたが、それ以上に、歌詞が、箱根駅伝予選会で成果をあげられなかった私の心境にリンクしました。
「絶対に巻き返してみせる。私は選手たちを信じている」
この曲を聴くといまだに当時の悔しさがよみがえるのですが、愛車のハードディスクに曲を入れ、何かあったときには必ず聴いて、自分自身を奮い立たせています。曲の歌詞もそうですが、監督が選手に声をかけるときも、言葉選びが大切です。私が学生にかける言葉にはシナリオなどなく、特にレース中はたまたま出てきた言葉を伝えるのですが、いつも本を読みながら、自分でも気づかないうちにそれらを探しているのかもしれません。